“安すぎる”もやしに限界…業界は悲鳴「2円でも」

 身近な食料品で値上げが相次ぐ中、1袋が数十円の手頃さで家計を支え続けている「もやし」。「なぜこんなに安いのか」。福岡市の女性会社員(43)から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に疑問が届いた。その背景を探ると、合理化を徹底する生産現場や、安売りの“目玉”として販売する流通の実態が見えた。だが、ロシアのウクライナ侵攻や円安などで生産コストが上がる一方で、業界からは「2円でも値上げさせて」と悲鳴が上がる。

 茨城県南部の湖・霞ケ浦に臨む小美玉市。旭物産(水戸市)のもやし生産現場は近代的な工場だった。大量のもやしが生産ラインを絶え間なく流れ、自動で袋詰めされる。24時間稼働し、生産量は1日40トンに上る。

 案内してくれたのは林正二社長(68)。全国の業界団体「工業組合もやし生産者協会」(東京)の理事長を務める。安い理由を尋ねると、「設備投資で可能な限り人件費を抑え、合理化の努力をしてきました」と話した。温度管理された工場で、原料の緑豆を10日前後育てて出荷する工程に、カメラによる検品システムなどを積極導入している。
 しかし、世界的なインフレの波は、もやしにも押し寄せる。新型コロナ禍からの急激な経済回復による原油価格や物流費の高騰が直撃。主に使う中国産の緑豆の価格は、現地の作付面積の減少や天候不順で、過去十数年で最も高い水準になった。

 協会は2月21日、「もやし生産者の窮状について~消えゆくもやし屋」という文書を発表し「経費削減への努力は限界を超え、健全な経営ができていません」と訴えた。その3日後にロシアの侵攻が始まり、3月からは円安も進んだ。燃料や包装資材など生産コストの高騰が一段と加速した。

 一方、店頭の安売りは常態化している。総務省の家計調査(2人以上の世帯)によると、100グラム当たりの平均価格は2000年は19・15円だったが、13年には14・64円に下がり、21年も15・33円に低迷。一般的に200グラムで1袋の出荷価格は20円台で、コスト上昇分の価格転嫁が進まない。12日に東京都品川区のスーパー2店を訪れると、表示価格は29円と38円だった。
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