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「東京一極集中が日本を救っている」といえる理由 「東京が潤えば地方も栄える」の仕組みを解説

コロナ禍においても、都内各地の再開発プロジェクトの多くは進行しており、懸念されていた人々の地方移住も限定的で、「東京一極集中」の状態は続いています。東京にはなぜ、それほどのパワーがあるのか。そして東京には、これから先どんな未来が待ち受けているのか。
明治大学名誉教授の市川宏雄氏、株式会社ボルテックス代表取締役社長兼CEOの宮沢文彦氏の新刊『2030年「東京」未来予想図』から、東京の現在と未来を3回にわたって紹介します。

 人口が東京に一極集中すること、その結果、ヒトだけでなくモノ・カネ・情報がすべて東京に集中してしまうことは、これまで社会の在り方として不健全だと考えられてきました。

■ヒト・モノ・カネ・情報が集まる東京圏

 地方に暮らす人々から見ると、東京圏にばかりヒト・モノ・カネ・情報が集まるのは、確かに不公平のように思えます。特に2000年代以降、「限界集落」や「地方消滅」といった問題が広く取り沙汰されるようになってからは、「東京一極集中こそが諸悪の根源」のようにもいわれてきました。

 しかし1990年代以降、出口の見えないデフレ不況に突入し、きわめて低い経済成長率しか達成できていない日本が今日でも先進国の一員でいられるのは、実は“東京一極集中のおかげ”ともいえるのです。ヒト・モノ・カネ・情報が今のように東京に集中していなければ、日本はどこかの時点で、G7(主要先進7カ国)から脱落していたかもしれません。多少オーバーな言い方をすれば、東京一極集中こそが日本を救っているのです。

 なぜ、そういう理屈になるのか。それは、現代が第3次産業全盛の時代であり、第3次産業は大都市でこそ繁栄する産業だからです。

 自然界に直接働きかける産業を第1次産業といいます。具体的には農業・漁業・林業がこれにあたり、第1次産業で製品(収穫物・漁獲物)を生産(収穫・採取)するために必要な場所は、耕作地・漁場・山林になります。第1次産業で得た製品を使って加工する産業を第2次産業といいます。製造業・建設業がこれにあたり、第2次産業で製品を生産するために必要な場所は工場・一定の広さの土地になります。

 では、第3次産業で製品を生産するために必要な場所とはどこでしょうか。第1次産業、第2次産業に含まれないすべての産業を第3次産業と呼びます。
具体的には、電気・ガス・水道業、情報・通信業、運輸業、卸売・小売業、飲食業、金融・保険業、不動産業、サービス業、公務など。第3次産業で生産される製品(サービス)は非常に多岐にわたりますが、その製品が生産される場所は明確です。人と人が自由に行き来でき、交流し合えるところ。つまり、交通網と情報網が整備され、多くの人々が居住しているところ、すなわち都市になります。

 すべての産業をこのように第1次から第3次までに分類したのは、イギリスの経済学者コーリン・クラーク。彼はペティ=クラークの法則でも知られています。

 この法則とは、一国の産業構造は経済発展の進度によって、第1次産業から第2次、第3次へと比重が移っていくというもの。

 わが国の経済発展の歴史もまさにそのとおりで、産業別の就業者人口を1968年と50年後の2018年で比較してみると、第1次産業は19.8%から3.4%に、第2次産業は34.0%から23.5%に減少しているのに比べ、第3次産業は46.3%から73.0%へと大きく増加。いまや、日本で働いている人の10人のうち7人は第3次産業に従事しており、その大部分が都市部で暮らしていると推察できます。

 この第3次産業に特徴的なのは、人口が集積すればするほどスケールメリットが働き、指数関数的に経済がより巨大に発展していくということ。人が集まれば集まるほど、そのニーズは多様化かつ巨大化していき、新たな市場が同時多発的に増殖されていくからです。

 人口100万都市が生み出す経済的価値=都市GDPを10倍しても、人口1000万都市1個分の都市GDPには遠く及びません。人口1000万都市の都市GDPは、人口100万都市のGDPの20倍にも30倍にもなるからです。

■東京の経済規模はオランダGDP以上

 たとえば、2019年度の世界各国のGDPを見ると、日本は5兆45億ドルで世界第3位ですが、驚くべきことに、東京都の巨大な経済規模は日本のGDPの約19%にあたる9654億ドル(都民経済計算平成30年度年報)に上り、オランダ、イラン、スイス、トルコといった国々のGDPを凌駕しています。一極集中によって巨大化した東京の経済力が、今日の日本経済を支えているといえるでしょう。