【バンコク=村松洋兵】タイの検察当局は1日、元野党党首のタナトーン・ジュンルンルアンキット氏を王室への侮辱を罰する不敬罪などで起訴した。同氏がタイ王室系の製薬会社による新型コロナウイルスワクチンの独占生産を批判したことが、国王への中傷に当たると判断した。裁判で不敬罪が認定されれば最高で禁錮80年が科される。
タナトーン氏は2021年1月にフェイスブック上で、タイ王室系の製薬会社が英アストラゼネカとタイ国内でワクチンを独占生産する契約を結んだことに疑義を呈するビデオ演説を公開し、タイ政府から刑事告発を受けていた。検察は起訴状で「国王が独占生産に関与したと国民に疑わせる発言は名誉毀損に当たる」と指摘した。タナトーン氏は「起訴は私を沈黙させ、国民を恐れさせるのが目的だ」と述べた。
同氏は軍政の流れをくむプラユット政権の退陣や王室の改革を主張している。20年2月には政権の影響下にある憲法裁判所から選挙法違反を理由に、党首を務めていた「新未来党」の解散と自らの政治活動の禁止を命じられた。若者などの間で人気が高く「次期首相にふさわしい人物」を尋ねた国民アンケートで1位になったこともある。
タイ政府は不敬罪の適用を一時控えていたが、20年に王室改革を要求する反体制デモの拡大を受けて再開した。人権派弁護士団体の集計では20年11月以降に少なくとも7700人が立件された。学生指導者らが相次ぎ拘束され、デモは勢いを失った。
タイでは5月に首都バンコクで9年ぶりとなる知事選が予定され、新未来党の後継である「前進党」が独自候補を擁立している。1年以内に下院総選挙の実施も見込まれており、民主化運動が再び活発になる機運が出ていた。

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