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日本の幽霊と西洋あたりのゴーストのちがいは足だとよく聞く。…

日本の幽霊と西洋あたりのゴーストのちがいは足だとよく聞く。足がないのが幽霊で、ゴーストには足がある。「精霊(ゴースト)は足下(あしもと)の墓石を指さしたきり身じろぎもしなかった」(チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』)。足下があるのだから、足がある▼その銃にゴーストの名がついているのは実態が見えにくく、捕まえることが難しいせいだろう。米国社会が頭を抱えるゴーストガンである▼通信販売で部品を購入して組み立てる銃をそう呼ぶ。殺傷能力は普通の銃と変わりないが、部品として購入するため製造番号がなく、犯罪に使われたとしても追跡することが極めて難しいという▼ゴーストに悩まされるのはもはや米国のことだけではないのだろう。安倍晋三元首相が撃たれて亡くなった事件。容疑者の男が使用したのは手製の銃だった。厳密にはゴーストガンではないが、自家製ならば、なおさら見つかりにくく、取り締まりは難しいはずだ▼男はネットで銃や火薬の製造法を見つけたと伝えられている。その気になれば銃を造れる時代になっている。銃とは無縁に思えたわが国だが、幽霊のように見えない銃の部品や造り方が漂っているともいえる。そこに悪意や憎悪が結びつけば、本物の銃ができあがる▼幽霊をどう捕まえるか。誰かが銃を造っているかも。想像しただけで夏の怪談より恐ろしい。