ここ10年、アメリカでは海外のお菓子が大人気だが、なかでも大きな成功を収めたのが日本の「ハイチュウ」だ。米誌「アトランティック」の記者が、ハイチュウのユニークなサクセスストーリーと、アメリカ人が海外のお菓子に魅了される理由を探る。

日本のキットカットを試してみたら…

ブルックリンのサンセットパークにある、小じんまりとした日本食材店「サンライズマート」では、山積みされたキットカットが嫌でも目に入る。

店内に足を踏み入れた途端、目の前に立ちはだかるのは色とりどりのキットカットの山だ。1袋10ドルとやや高めだが、そんなことは気にならないらしい。私がスープの材料を探しにこの店を訪れると、平日の午後にもかかわらず、複数の買い物客が次々とキットカットの袋を手に取っていった。

私はアメリカのスタンダードなキットカットしか食べたことがなかったが、日本のキットカットを絶賛する声はよく耳にしていた。せっかくの機会だし、食べてみないわけにはいくまい。

ピスタチオ味と抹茶味を1袋ずつ購入した私は、自宅のキッチンカウンターで自分だけの試食会を開催した。その味と食感は、これまでに食べたどんなお菓子とも違っていた。どちらも美味しい。抹茶味の勝利だ。

アメリカの輸入菓子ブーム

YouTubeやTikTokでは、ヨーロッパやアジア、ラテンアメリカのお菓子を試食するアメリカ人の動画が、数百万回と再生されている。

マンハッタンにある菓子店で、膨大な品揃えを誇る「エコノミー・キャンディ」には、ネットで見たり、知人から聞いたりした遠方のお菓子を試したい新たな客が、毎日のように訪れる。

夫と店を切り盛りするスカイ・グリーンフィールド・コーエンによると、5年ほど前まで、同店には輸入菓子の棚が2つか3つしかなかった。それがいまでは、世界各地から仕入れた輸入菓子が在庫の約3分の1を占める。

見方によっては、どんなタイプのお菓子でも──外国産であれ国産であれ──人気が出た理由を理解することは別に難しくない。そもそもお菓子は人の気をそそり、喜ばせるように作られているし、たいてい安価である。

だがアメリカ人は、国産菓子の選択肢に事欠かないはずだ。どの食料品店でも、レジ前にはスニッカーズ、ツイズラー、M&Ms、スキットルなどが所狭しと並んでいる。

つまり、外国のお菓子への欲求は、SNSで評判が広まったことによる一時的な人気急騰で説明しきれるものではない。ある試算によると、2009年以降、アメリカのチョコレートを除くお菓子の年間輸入額は数億ドルごとに増加し、2019年には初めて20億ドル(約2900億円)の壁を越えたという。

物流や文化的な要因も、アメリカの輸入菓子ブームの一因ではある。しかし何よりもまず、アメリカ人が外国のお菓子を好む理由は、私がキッチンで抹茶味のキットカットから受けたのと同じ衝撃を受けているからだと思われる。外国のお菓子は、大半のアメリカ産お菓子より圧倒的に美味しいのだ。

https://courrier.jp/cj/301776/