ロシアとイランの接近が招く「ドミノ倒し」

イランのロシアに対する政治、軍事面での急速な傾斜が目を引いている。欧米への不信感が根強いイランだが、自立・自尊心の高い地域大国イランがここまで特定の一国に傾斜したことはイラン革命(1979年)以降、なかった。

 核合意の建て直しはほぼ絶望視されているが、ロシアとの接近で得るものがあると読んでいるのだろうか。

 ◇ドローンを供与

 イランのアブドラヒアン外相は11月5日、「少量のドローンを(ロシアがウクライナに侵攻した)2月24日以前に送った」と、ロシアへのドローン提供を初めて公式に認めた。

 連日、イラン製ドローンがウクライナ軍によって撃ち落とされており、認めざるを得なくなった。ただ「少量」「2月24日以前」とすることで、戦争とは直接関係がないと強調した。ウクライナ政府は直ちに「毎日10機前後が撃ち落とされており、少量は事実に反する」「侵略前の提供というのはウソ」と反論した。

 米国の独立系情報研究機関「スフランセンター(TSC)」によると、イランはロシアが併合したクリミアに革命防衛隊の技術者を派遣し、ロシア軍にドローン操作を教えている。さらに10月末から、射程300キロと同700キロの2種類の地対地ミサイルのロシアへの供与も開始したという。これによると10月初旬、イラン政府高官が訪露し、まとまった。

 ◇急接近

 イスラム革命後、イランは「貧者・被抑圧者革命」を掲げ、第三世界との連携を軸にして、大国とは一定の距離をとる外交を展開してきた。親米欧だったパーレビ前王制の反動で、米国や欧州主要国への不信感が根強いのは当然だ。

 しかしロシアに対しても、前身のソ連がイラン共産党を通じて革命後のイランにさまざまな工作を展開したり、ソ連軍がイランの隣国アフガニスタンに侵攻したことなどへの警戒感があり、つかず離れずの関係を保ってきた。それがここにきての急接近である。何があったのか。

 昨年のバイデン米政権の誕生後、米国とイランは前米大統領のトランプ氏が破棄した核合意の立て直し交渉を、欧州連合(EU)の仲介で進めてきた。今年2月には「妥結は近い」と言われたが、その後、再びギクシャクが目立つようになって失速した。

 この背景について仏フィガロ紙は今月4日、イラン政府内に通じている仏実業家の情報に基づいて、ロシアがイランに対して合意立て直しに署名しないように強く要請し、最終的にイランは応じた、最高指導者ハメネイ師の決断だったと伝えた。

 ロシアには妥結によって対イラン制裁が解除され、イランが原油を先進国に輸出できるようになるのを防ぐ必要があった。西側先進国が対ロシア制裁でロシア産天然ガスと原油の輸入を自主削減しているなか、イラン産原油がロシア産を穴埋めすることになれば、ロシアの西側に対する優位性が損なわれるからだ。

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4076cf45ab094b4f57e7564f6cfbaf1344d61c81