https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20230119-00333382

攻撃ヘリコプターを廃止する陸上自衛隊

022年12月16日に日本政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安全保障関連三文書(安保三文書)を発表しました。この文書の中では幾つもの驚きの方針が記されていましたが、そのうちの一つが攻撃ヘリコプター(対戦車ヘリコプター)と偵察ヘリコプター(観測ヘリコプター)の廃止です。

陸上自衛隊については、航空体制の最適化のため、一部を除き師団・旅団の飛行隊を廃止し、各方面隊にヘリコプター機能を集約するとともに、対戦車・戦闘ヘリコプター(AH)及び観測ヘリコプター(OH)の機能を多用途/攻撃用無人機(UAV)及び偵察用無人機(UAV)等に移管し、今後、用途廃止を進める。その際、既存ヘリコプターの武装化等により最低限必要な機能を保持する。
攻撃ヘリコプターを廃止して無人攻撃機および輸送ヘリコプターの武装化で代替し、偵察ヘリコプターを廃止して無人偵察機で代替するという方針です。

※ドローンが対戦車攻撃に有効というわけではない
 意外に思われるかもしれませんが、これは対戦車攻撃について攻撃ヘリコプターより無人機(ドローン)の方が優秀だから取って代わられたというわけではありません。例えば現在行われているロシアが侵攻したウクライナでの戦争では、両軍が使用している遠隔操作型の無人攻撃機(宇軍:バイラクタルTB2、露軍:クロンシュタット・オリオン)は戦車をほとんど撃破できていません。
オランダの軍事OSINT「Oryx」で計測しているバイラクタルTB2無人攻撃機の視覚的に確認された戦果は2022年9月初旬で止まっており、戦車撃破数はOryx英語版ではわずか5両のみです。2022年2月24日の開戦から2023年1月19日の現在まで約11カ月経過していますが、遠隔操作型無人攻撃機は攻撃面では満足に通用できていません。これはお互いに航空優勢が確保できていない環境だからです。

 機体カメラの映像を見ながら操作する遠隔操作型無人攻撃機は戦果の映像を必ず残せる利点があります。活躍しているなら宣伝のためにもっと多く動画が公開されている筈ですが、そうではないので、実際に発表できる戦果がないのでしょう。

 なおロシア軍はオリオン無人攻撃機がほとんど戦果を上げていない中で(戦車撃破はゼロ)、自爆無人機「ランセット」については最近戦果の報告を動画でよく目にするようになりましたが、実際に確認できる戦果を合計してみると多いとは言えず、Oryxの計測ではランセットによる戦車撃破は8両です。
そもそも自爆無人機は使い捨て運用なので、本来は徘徊弾薬(Loitering munition)という呼び方をする兵器です。これはドローンではなくミサイルの一種、滞空時間の長いミサイルだと考えた方が実態を正しく捉えられるでしょう。

 すると無人攻撃機や自爆無人機では攻撃ヘリコプターの完全な代替はできそうにありません。偵察ヘリコプターは無人偵察機に取って代わられたと言えますが、攻撃ヘリコプターはそうではない。それではなぜ陸上自衛隊は攻撃ヘリコプターの廃止を決めてしまったのでしょうか?

戦場で生き残れない攻撃ヘリコプター
 実はドローンが戦場で広く使われるようになるよりもずっと前から、攻撃ヘリコプター不要論は一部で唱えられていました。戦場に携行地対空ミサイルを持つ歩兵が多く存在するようになったのに、はたして低空を低速で飛ぶ攻撃ヘリコプターが生き残ることが出来るのかという疑問です。それはウクライナでの戦争で真っ先に現実のものとなりました。
ロシア軍は攻撃ヘリコプターが携行地対空ミサイルによって多数が撃墜されてしまい、損害を恐れてロケット弾を遠くから斜め上に撃って遠隔攻撃して直ぐ帰る消極的な戦法に追い込まれました。これでは命中精度など全く期待できないですし、遠くからロケット弾を撃つだけなら輸送ヘリコプターの武装型でも同じことが可能です。攻撃ヘリコプターの存在意義が揺らいでしまっています。

 攻撃ヘリコプター不要論は現実の戦争での大損害を目の当たりにしてさらに議論が活発化している状況です。ただし現在でも攻撃ヘリコプターが必要だとする反論の声もあります。世界の方向性はまだ定まったとは言えません。