「黒田東彦総裁の路線を継承する」。首相は10日夕、党幹部に電話で総裁人事を伝達。金融緩和政策を基本的に維持し、修正には慎重な姿勢で臨む立場を示した。

 首相は昨年末ごろ、木原誠二官房副長官、嶋田隆首相秘書官ら経済官庁出身の側近と検討作業を本格化させた。重視したのは、政権安定の基盤となる安倍派の納得感だ。同派の閣僚経験者は今年1月、「路線を転換すれば首相を支えられない」と強くけん制。こうした声を踏まえ、首相周辺は「方向性は変えられない」と明言していた。

 もう一つのポイントが出口戦略。日銀は黒田総裁の下で大規模緩和策を続けてきたが、昨年来の米金利引き上げにうまく対応できず、急激な円安が物価をさらに押し上げて国民生活を直撃。将来的な路線修正も視野に入れる必要があった。

政権内で早くから名前が挙がったのが雨宮正佳副総裁だった。日銀出身で黒田氏の路線を支えてきた手腕には定評がある。だが、首相に近い閣僚経験者が昨秋、内々に接触して意向を確認すると雨宮氏は固辞し、逆に「学者が望ましい」と進言したという。

 雨宮氏を諦めきれない政権中枢では、同じ日銀出身の中曽宏前副総裁も取り沙汰された。「本当に難航している」。首相周辺はこう漏らしていたが、ある政権幹部は1月中旬、「総裁は学者とか、皆さんの想像とは別の人になる」と言及。副総裁起用が報じられていなかった内田真一日銀理事の名を挙げ、「(事務処理は)内田氏が担う」と「予言」していた。

 この頃には、首相は「植田総裁」を念頭に置いていたとみられる。自民党幹部周辺は「雨宮氏で調整していたのは事実だと思う」とし、「植田氏を首相に提案したのは黒田氏ではないか」との見方を示した。

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