
真冬の野外に数万人 いまサツマイモが“激アツ” その理由は…(日本農業新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b5f782e49af1a76273210055391c59752605fc15
この冬、毎週末のように各地でイベントが開かれた“売れっ子”がいる。
サツマイモだ。
各地で盛況 ”サツマイモイベント”の様子
日本農業新聞「農家の特報班」が調べたところ、昨秋から今春にかけ、焼き芋やサツマイモを使ったスイーツを楽しむイベントが全国で少なくとも30件以上開催。数万人が訪れたものもある。なぜ、サツマイモはこんなに多くの人を集められるのか。秘密を探った。
「サツマイモ イベント ○×県」
記者がインターネットで検索すると、出るわ出るわ。芋の収穫ではなく「食べること」がメインのイベントが、北は北海道、南は沖縄まで約35件見つかった。規模は大小さまざまだが、各地の焼き芋専門店を集めたり、複数品種を食べ比べできたりする場合が多い。
中でも最大規模とされるのが、2月下旬にさいたま市で開かれた「さつまいも博」だ。2020年と22年に続く3回目の今年は、過去最多となる26の専門店が出店し、人気投票や生産者の表彰といったイベントも実施。冬空の下、当日券で800円の入場料を支払ってまで、5日間で約5万人もの人が訪れた。
「人が集まる理由はシンプル。サツマイモのポテンシャルが大きいから」と、同博実行委員会委員長の石原健司さん(37)。「焼くだけで、ここまでの違いや深みが出る食べ物は他にあるでしょうか?」
食べ比べ楽しく 全世代から支持
サツマイモの生産・消費に詳しい「さつまいもアンバサダー協会」の橋本亜友樹代表理事によると、こうしたイベントが始まったのは2017年ごろ。それ以前からの焼き芋ブームや専門店の増加を背景に、芋の産地よりも、首都圏や関西など消費地で広まった。主催者は一般のイベント企画・運営会社が多いという。
サツマイモのイベントは秋の収穫祭が定番だったが、他に屋外でのイベントが開きにくく、芋が熟成しておいしい時期でもある年明けの開催が定着。飲酒を伴わず、持ち帰りもできるため、新型コロナウイルス下でも比較的開きやすいとみる。
橋本さんが「元祖」とするのが、東京都港区の複合施設で開かれる「品川やきいもテラス」だ。17~20年まで毎年1、2月に開き、20年には1週間で約5万人を集めた。7、8割は女性だという。3年ぶり開催の23年は15店舗が出店。1日2700人に入場を制限したが、連日ほぼ埋まった。
企画・運営する企業マーケティング会社「タノシナル」(東京都江東区)マネージャーの伊藤宏治さん(47)は「品種や店の種類が豊富で、食べ比べて楽しめる」ことが集客力の理由とみる。3~5店舗程度を回る来場者が多く、何日も訪れて全店舗を制覇する人も少なくないという。
ただ、当初は焼き芋ブームや専門店の存在も知らず、冬に開催可能なイベントを考える中で企画。店舗集めも苦労した。伊藤さんは「ここまでヒットするとは」と振り返る。
①あらゆる層がターゲット②健康的でリーズナブル③競合イベントが少ない季節④焼き芋は食中毒が起きにくい──。関西を中心に18年から10回開かれ、計20万人が訪れた「やきいもパーク」の主催団体・イモプロ代表の西野亮さん(39)は、サツマイモイベントの魅力をこう分析する。
サツマイモは加熱で軟らかくなり、離乳食にも使われ、アレルギーが少ない。食物繊維が豊富で“罪悪感”が薄く価格もそれほど高くない。このため老若男女が安心して食べられ、親子孫3世代で楽しめる。冬の屋外イベントは珍しいため注目され、主催者のリスクも低い。「何より日本人はお芋好き。これ以上の食べ物は他にないですよ」(西野さん)
需要定着へ“次の一手”
だが、何事もブームになるほど飽きられやすい。サツマイモイベントの人気も「今がピークでは」(ある主催者)との見方がある。イベントによっては行列や待ち時間が長い、品質がばらばらといった不満の声も上がっているという。
さつまいもアンバサダー協会の橋本さんは「イベントをきっかけに、需要を定着させる必要がある」と指摘。“次の一手”として、料理での利用や、自宅でできる焼き芋の焼き方など、家庭需要の拡大が重要だとする。(岡部孝典)