コラム:米外交、後退する人権重視 対中ロ包囲で新戦略模索


[ロンドン 18日 ロイター BREAKINGVIEWS] - バイデン米大統領は就任当初、米国の外交政策の「中心」に人権を据えると約束した。それが、今ではベトナム、サウジアラビア、インドなど程度の差こそあれ、国民の権利尊重という点でお粗末な実績を持つ国々に取り入ろうとしている。

バイデン氏は、こうした政策の変化について、もっときちんと説明する必要がある。

変化の最大の理由は明らかだ。今の米外交政策を動かしているのはロシアによるウクライナ侵攻および、米中関係の緊張であり、そうした中で倫理面への配慮が二の次になっているということだ。

バイデン氏は今月のアジア訪問で、戦略問題を優先するために人権問題を犠牲にしているのではないか、との疑念を否定。インドのモディ首相やベトナムの指導者らに対して、人権問題を提起したと述べた。それでも、アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体は懸念をぬぐえていない。

一方、ブリンケン米国務長官は先週、「中国とロシアが手を組み、世界を独裁政治にとって安全な場所にしようとしている」と指摘した。米国が人権問題を脇に置いているとは言わなかったものの「われわれが単独で、もしくは民主的な友人らだけと一緒に進むなら、目的を達成できないだろう」と付け加えた。

バイデン氏が今月、20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するためにニューデリーに赴いた際、こうした軸足のシフトが可視化された。同氏はモディ首相を賞賛し、サウジのムハンマド皇太子と握手したのだ。バイデン氏は続いてハノイに向かい、この場でベトナムは、両国の外交関係を最上級に格上げすることに合意した。

インドは民主国家だが、サウジとベトナムはそうではない。だが、世界人権宣言に照らせば、どこの国の実績もほめられたものではない、というのが米国の考え方だ。

バイデン氏は過去に、21世紀の主要な対立軸は民主主義対独裁主義になると明言していた。だが、現在の姿勢は、それとは対照的だ。大統領選に勝利する前は、サウジを「のけ者」にするとまで約束していた。バイデン氏は今、独裁国家には2種類あるとの考え方を受け入れたようだ。米国とその同盟国にとって脅威となる独裁国家と、そうではない独裁国家だ。

米国が「ましな方の悪」を選ぶことには妥当性があるかもしれないが、米国の外交政策にとって人権が果たす役割が、今は不明瞭になっている。バイデン氏は、その点をきちんと説明した方が良い。

https://jp.reuters.com/markets/global-markets/23VUM7U5SFOE5EWEEQP24KZD7Y-2023-09-20/