「アニメ恐るべし」小説新潮1987年9月号

ぼくの小説の中で、これはどうやら男性より、女性の方が読んで下さっているらしい『火垂るの墓』がアニメーション映画となる。
これまで、この小説映画化の話は何度かあって、いちばん具体的だったのが、去年亡ったKKベストセラーズ社長岩瀬順三の企画。
『火垂るの墓』の時代は、昭和二十年初夏から、夏の終わり、即ち敗戦直後まで。

舞台は焼跡と、蛍の乱舞する池や川や野っ原、人物といえば、痩せこけた少年と幼女、及び殺気立ち、かつ飢え、さらに家財産すべて失ったが、
失う予感に怯える大人。なによりかより、本土決戦つまり民族滅亡を目前にして、
ヤケクソとばかりもいえない、奇妙な明るさに充ちていた、あの年の夏を、どうやって映像にするか。

小説の映画化に当たって、ぼくはこれまでいっさい注文をつけたことがない、両者は別物であり、
いかに換骨奪胎されようが知ったこっちゃないと考えているが、『火垂るの墓』だけには原作者としてのこだわりがあった。
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