米金融大手ゴールドマン・サックス・グループは、今年の米経済について強気の見通しを示している。成長率は2.3%と堅調、失業率は4%未満を維持、リセッション(景気後退)入りの確率はわずか15%とみており、いずれも市場のコンセンサスより楽観的だ。さらに、食品とエネルギーを除いたインフレ率は低下し続け、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視するインフレ指標は年末までに2%強に改善すると考えている。

 予測はしょせん予測だ。ゴールドマンだからといって気にするのはなぜか。第一に、同社のエコノミストは確固としたソフトランディング(軟着陸)派で、今はその予見性が高そうだからだ。

 第二に、同社のチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏(55)は、同じくコンセンサスから外れていて予見性の高い、今とは反対の判断を2008年に示していた。同氏が当時、住宅ローンのデフォルト(債務不履行)が深刻な景気後退を招く可能性があると警鐘を鳴らしていたのは正しかった。

 大きな予測を一つ的中させるのは運かもしれないが、二つならフォロワーが現れる。ハチウス氏は、ウォール街とワシントンで最も注目されているエコノミストの部類に入る。

 09年から17年までバラク・オバマ米大統領(当時)の経済顧問を務めたジェイソン・ファーマン氏は、「ホワイトハウスの経済チームの全員が、どのアナリストよりもゴールドマンを熱心に読んでいた」と語っている。ジョー・バイデン大統領の経済顧問ジャレッド・バーンスタイン氏は最近、ハチウス氏は「群を抜いている」とXに投稿した。公開されているスケジュールによると、ジェローム・パウエルFRB議長はハチウス氏と数回会っている。

 ハチウス氏は明らかにその予測的中率の高さで貢献している。優良株予測精度に関するローレンス・R・クライン賞を2度(09年と11年)受賞した数少ないエコノミストの1人だ。21年と22年のインフレ率予測は他のエコノミストと同じく低すぎたが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の23年予測精度ランキングで同氏はエコノミスト68人中5位だった。

 だが何よりもフォロワーを引きつけているのは、ハチウス氏のチームが行っている調査の詳細さと量だ。米国内12人(米国チーフエコノミストのデービッド・メリクル氏を含む)と国外29人のエコノミストで構成されるこのチームは、定期的にその時話題となっている疑問に詳しく数量的な回答を出している。人工知能(AI)は長期成長率をどの程度引き上げるか(かなり)、ロックダウン(都市封鎖)をする代わりにマスク着用を義務化する経済的メリットは(大きい)、賃金を巡る大規模労使交渉の和解はインフレに影響するか(あまりしない)、などだ。

 同チームは独自の経済指標を作成している。その一つが、ハチウス氏と当時の上司で後にニューヨーク連銀総裁となったビル・ダドリー氏が2000年に開発した金融環境指数だ。金利、債券利回り、株価、ドルに基づいて金融政策効果を計るもので、その後これを模倣した指数がいくつも現れた。

https://jp.wsj.com/amp/articles/goldman-sachss-chief-economist-has-nailed-big-calls-heres-his-next-one-f60980d7