実際に安倍政権が検察首脳人事に口出しを始めるのは、2016年9月の法務事務次官人事からだ。法務・検察が「3代先の検事総長に」と予定していた、刑事局長の林を事務次官に起用する人事案を政権が拒否。林と検事任官同期で官房長の黒川の起用を求めたのだ。
そして「1年後には林を次官にする」との感触を政権から得た法務省は、黒川を次官に起用した。だが政権は林を次官にしないまま2018年1月、検察序列ナンバー4の名古屋高検検事長に転出させた。そのうえで黒川を2019年1月、検察ナンバー2で検事総長テンパイポストとされる東京高検検事長に起用した。
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桜を見る会で聴衆を前に演説する安倍氏 ©時事通信社
だが検察も、完全に政権の言いなりではなかった。政権は黒川の検事総長起用を強く希望したが、検事総長の稲田伸夫は、黒川が定年を迎える2020年2月までに総長職を禅譲することを拒んだ。さらにこの間、稲田率いる検察は、2019年7月の参院選をめぐる公選法違反(買収)容疑で、安倍側近の前法相・河井克行と妻の案里を捜査。2020年6月、2人を逮捕した。政権はこれを検察の「反逆」と受け取め、苛立った。もっとも、検察側も立件に前のめりになりすぎ、禁じ手の脱法的司法取引を使ったことが後に発覚。批判も受けた。
そして安倍政権が東京高検検事長の黒川の定年を、国家公務員法を根拠に半年間延長する異例の人事を行ったのは2020年1月末のこと。法務事務次官だった辻裕教が、黒川の半年間の定年延長という奇策を編み出したのだった。次期検事総長含みでのウルトラCだった。野党側は「違法な法解釈による違法人事だ」と猛反発。公職選挙法違反の疑いが指摘されていた、首相主催の「桜を見る会」前夜の夕食会での飲食代提供問題などで検察の手心を期待した人事ではないか、と勘繰った。