https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210414/k10012971791000.html
「エンジェルさん」の死が問いかけるミャンマー軍の非道
「きょうも、ひどいです」
軍や警察の弾圧を記録したSNS動画を転送してくれるミャンマー人の女性がつぶやきます。ミャンマーでは軍や警察の弾圧による市民の犠牲者が増え続け、一人一人の死の記録や検証が困難になっています。私たちはクーデター以降、市民たちが撮影してSNSに投稿した動画を集め、分析を続けてきました。すると、軍が関与を否定したある若者の死について、軍の主張を覆す状況が次々に浮かび上がって来ました。
この衝撃的な会話、警察官が交わしたものとみられます。戒厳令が出されている最大都市ヤンゴンのラインタヤ地区を見下ろす橋の上で3月14日に撮影されたとして出回っているものです。
これと同じ日、兵士たちが「ラインタヤでは容赦しないで重火器を使おう」と話しながら出動していく別の動画も投稿され、その後削除されました。
現地の人権団体AAPPによるとラインタヤ地区ではこの日1日だけで、60人以上が亡くなっています。
私たちは映像をもとにラインタヤで何が起きていたのか検証を続けています。
情報統制の中 世界に実情を伝えるSNS動画
半世紀以上続いた軍事政権から民政に移管した2011年以降、ミャンマーの人々はスマートフォンを手に入れ、SNSを通じて海外の情報にアクセスし、国外の人ともつながるようになりました。
連行中に突然頭を撃たれ引きずられていった人
バイクで警察官の横を通ったところ狙い撃ちにされた後トラックに積み込まれた人
警察官の膝の間に挟まれ首を絞められて動かなくなった人
クーデター後、市民たちが「#WhatsHappeningInMyanmar(ミャンマーで起きていること)」のハッシュタグとともにSNSに動画を投稿しました。軍や警察による“取り締まり”の一部です。
インターネットの遮断など軍が情報統制を強め、軍や警察、市民に紛れたスパイの監視下におかれた危険な状況にも関わらず、人々はネットがつながる場所を探して映像を投稿。撮影者が特定されないように、あまたの人の手をわたってリレーのように拡散されていきます。
NHKスペシャル『緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス』取材班では、SNSに投稿されたさまざまな映像を収集・分析してきました。
誰もがアクセス可能なデータを基に取材・調査を進める方法は、「オープンソースインテリジェンス(OSINT)」と呼ばれ、もともと警察や情報機関などで使われてきた手法ですが、デジタルツールの急速な発展により、メディアにも広がり、現地取材が難しい紛争地で起きたことの解明などに使われるようになっています。
検証!「エンジェルさん」の死の真相
市民の間で「軍によるフェイクニュース」として大きな話題になった事件がありました。
3月3日、ミャンマー第二の都市マンダレーでデモに参加していた19歳の女性が後頭部を撃たれて亡くなった事件です。
女性はチェー・シンさん、通称「エンジェル」さん。
クーデター以降、軍への抗議デモに参加する中で「もし自分が死んだら角膜や臓器を提供したい」と、死を覚悟したかのようなことばをSNSに投稿していました。