マクドナルドのレジの前で注文するとき、いつも迷う“ふり”をしている。ええと……と一瞬だけメニューに目を走らせ、「チーズバーガーとポテトのSください」、と決めていたせりふをひと息で言う。

なぜかと言えば、それ以外のメニューがわからないのだ。レジの列に並んでいるときは、小学生のころから20年近くチーズバーガーとポテトばかり食べている自分の保守的なところがイヤになって、きょうこそはメニューを見てその場で食べたくなったものを注文するぞ、と意気込んでいる。が、レジの前に貼りつけられたメニュー表を見ると、一気に“わからない”が押し寄せてきて、チーズバーガーとポテトのSと言ってしまう。

読めないのだ、メニューが。写真があって、その下に値段があるというところまではぎりぎりわかる。けれど、どれがどれに対応しているのかがとっさに理解できない。……という話を人にすると、「マックのあの読みづらさはセットメニューを買ってもらうための戦略なんだよ」、と笑われるのだけど、「なんだそうかあ」、とホッとしたふりをしつつ、じつはスタバのメニューもモスバーガーのメニューも同じように読めてないんです、というのは言わないでいる。
「人物相関図」はいったいなにが起きているのか

「読めないってどういうこと? 書いてあるじゃん」と言われると、本当にそう、書いてあるのよね、と思う。ある程度の時間をかければさすがに読めるのだけれど、レジの前に立って悩む10秒ほどのあいだではやっぱり“読めない”。その10秒のあいだに私の頭の中で起きていることを再現するなら、

「……トマトが挟まっているハンバーガー? が420円? あ、ちが、これセットメニューのコーヒーとサラダだ、あ、レタス……いやこれキャベツかな……420円……あ、違うこれ隣のフィッシュバーガーの値段だ……」

という感じです、なんの誇張もなく。

こんなふうなのでほとんどひとつの情報も読みとれず、うしろに人が並んでいたりするともう知っているメニューを頼むしかなくなって、マックなら自動的にポテトとチーズバーガー、スタバなら本日のコーヒーかホワイトモカ(誰かが一緒にいるときは注文を真似(まね)すればいいので期間限定メニューも頼むことができる)、となる。

たぶん、図が意味するところを瞬時に汲(く)みとり、場合によってはその周辺に添えられている文字と組み合わせて理解する、ということが致命的に苦手なのだと思う。前述のメニュー表の例で言うなら、「セット」や「単品」という文字、そして値段を示す数字に組み合わされた「+」や「↓」といった記号が、なにを表しているのかとっさにわからない。

同じように、駅の案内板やエレベーター内のボタンも苦手だ。「A4出口↑」をめざして歩いていたのに気づいたらC8出口から出ていたり、エレベーターのドアを閉めようとして「←→」(開ボタン)を押し続け、延々閉じないドアを前に30秒くらい待ってしまったりする。小説の「人物相関図」を見ても誰と誰が親子で誰と誰がライバルなのかさっぱりわからないし、タイトルに「図解」とついている参考書は高校生の頃からいちども買っていない。自分でこう書いていても情けないのだけど、読んでも絶対にわからないからだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/090ef481dfa7cf55dbae8103ccdbde1685bc3167