発見のキッカケになったのは、中央アメリカに生息するアマガエルでした。
この地域のアマガエルのオスは繁殖期になると歯を伸ばし、唇も分厚くなっていくという奇妙な「口周りの変態」を起こすことが知られており、この変態もまた、
何らかのフェロモンにかかわっていると考えられたからです。
ゲーテ大学の研究者たちがこのカエルを調べたところ、交尾の際にオスがメスの背中に口先をグリグリと押し付けていることが確認されました。
また研究者たちが交尾後のメスの背中を観察すると、オスの歯による生々しい傷跡が残されていることを発見します。

ネコなどの動物でも、交尾の際にオスがメスの背中を噛んで、メスが逃げられないように抑え込むことが知られていましたが、
メスを束縛するだけならば「唇の変態」は必要ありません。
そこで研究者たちはオスカエルを安楽死させ、分厚くなった唇を調べてみました。
すると、オスカエルの唇には特殊な分泌腺が存在しており、何かを唇から放出していると判明。
また分泌腺で働いている遺伝子を調べたところ、メスの産卵をうながす効果のある「性フェロモン(ソデフリン前駆体様因子)」が大量に作られている可能性が示されました。
さらに研究者たちがメスの背中にできた傷跡を調べたところ、同様の性フェロモン(ソデフリン前駆体様因子)が豊富に検出されました。

この結果は、オスカエルが交尾のさいにメスの背中を歯で傷つけ、唇から分泌されるフェロモンを傷口から体内に流し込んでいる可能性を示します。
交尾のさいに相手の体内に皮膚を破って直接的にフェロモンを流し込む仕組みは、
原始的な無脊椎動物では知られていましたが、人間と同じ脊椎動物に確認されるのは非常に珍しいと言えます。

研究者たちは今後、噛みつき型のフェロモン伝達がメスの体にどのような変化を与えるかを、より詳細に調べていくとのこと。
体外からの注入によるフェロモンが人間の本能にも作用する場合、血中への投与によって精神や肉体に作用を発揮する、新たな薬が開発されるかもしれません。

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