飼い猫に火を付け、やけどを負わせたとして動物愛護法違反容疑で書類送検され、不起訴処分(起訴猶予)となった大阪府の病院職員の男性(31)が11月、大阪池田簡裁から罰金10万円の略式命令を受けた。検察審査会の議決を受け、再捜査した検察が略式起訴していた。検審は議決書で、猫の飼育について「人間となんら変わらない命を預かるということだ」と指摘していた。

【「犬猫ボランティアの神様」多頭飼育で放置か】

 起訴状によると男性は1月8日、室内で飼っていた猫に消毒用エタノールをかけて、火の付いた割り箸を近づけて点火させ、猫の顔面などにやけどを負わせたとされる。

 治療した動物病院によると、やけどは顔から腹部まで体表の30%近くに及んだ。生命に危険が及ぶ状態で3回の手術が必要だった。前脚や腹部の皮膚は壊死(えし)し、衰弱して食事ができず、2〜3カ月間は鼻からチューブで栄養を流し込んだ。猫を自分で病院に連れてきた男性は「仕事で疲れていて、火をつけた」と説明したという。

 ◇不起訴処分後、動物団体に寄付

 病院は大阪府警に通報。4年前に猫を男性に譲った大阪府箕面市の保護猫カフェ店主、木村知可子さんは男性を刑事告発した。書類送検された男性について、大阪地検は4月、不起訴処分とした。

 その頃、木村さんは動物団体に男性名義で5万円の寄付があったことを知った。木村さんは「お金の問題ではない。簡単に扱い過ぎだ」とし、検察審査会に不起訴処分について不服を申し立てた。

 検審は21年7月、議決書で、猫に火を付ける行為は「悪質で常軌を逸した残忍なもの」と指摘。男性は治療費の一部しか支払っていないとし、「猫を飼うことは命を預かるということ。その命は人間の命となんら変わらない」と断じた。

 動物愛護法は2020年6月までに、動物を殺傷した場合の罰則を懲役5年以下か罰金500万円以下に引き上げられた。議決書はこのことを踏まえ、「適切に処罰されなければ、厳罰化の意義を損なうことになりかねない」とし、「起訴相当」と結論付けた。

 ◇「罰金10万円、納得いかない」

 猫は動物病院に引き取られ、新しく「トラ」と名付けられた。胸の直径5センチほどの皮膚は再生が遅れ、10月に最後の手術が施された。後遺症で、元通り動けるか分からず、顔の前に人が手を出すとビクッと身構えるという。木村さんは「罰金10万円では納得がいかない」と憤る。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee4aaa07dcf9b9a7b6eb6e5c9cdf3de8132cb4e7
 警察庁によると20年の動物虐待事件の検挙数は102件。一方、動物愛護法違反罪での起訴は42人にとどまる。このうち38人は100万円以下の罰金・科料だった。木村さんの代理人で「動物の法と政策研究会」会長の細川敦史弁護士は「餌を与えずに猫数十匹を死なせて罰金10万円となった事件もある。法改正で動物虐待は厳罰化されたが、実際の処分は軽いケースが多い」と話している。【井上元宏】