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再生エネ活用へ火力発電抑制 経産省、供給超過時に

経済産業省は発電能力があるのに活用しきれていない太陽光や風力発電を減らす対策を強化する。地域内で電力供給が需要を上回り停電が懸念される際に、火力発電所の出力を20〜30%まで下げるよう電力会社などに求める検討に入った。現在は50%以下まで抑えればよいルールだが、火力をさらに絞ることで再生可能エネルギーの発電余地を広げ、脱炭素化につなげる。

火力発電などを重視してきた政策から、再生エネの「主力電源化」に向けた転換の一つとなる。地域間で電気を融通する連系線を含む送電網の整備など、再生エネを有効活用するための全体的な対策も重要になる。

電気は需給が一致しないと停電がおきる。太陽光発電の多い九州では需要を上回りかねないとして2020年度に60日間、太陽光などの発電を止める「出力制御」を実施した。脱炭素に向け、太陽光発電は全国で増える見込みだ。他地域でも同じ状況になりかねず、対策を強めることにした。

年内に方向性を出して来春にも新たなルールに移行し、新設の火力発電所に適用する。既設の発電所は設備更新などが必要になることも考慮し、2〜3年の適用猶予を設ける方針だ。引き下げが困難な場合は原則として稼働停止を求める。

ルール変更の指針改定に伴い、再生エネの発電を止めていた時に稼働していた火力発電所の名前や出力値、発電理由を公表する制度も始める。
経産省の資料をもとに首都圏、関西、中部をのぞく地域で「電源V」と呼ばれる火力発電の出力を50%から20%に下げる効果を試算したところ、再生エネの発電余地が150万キロワット前後あるもようだ。火力や原子力も含めた国内の発電容量は約2億7000万キロワットで、再生エネは2割強の6700万キロワットを占める。150万キロワットは再生エネの2%強に相当する。

太陽光の発電を止める出力制御は発電事業者の損失になる。今回の対策で経営のリスクを軽減し、脱炭素化に向けて投資を呼び込みやすくする。

出力制御は春や秋に起きやすい。天候が良く太陽光発電量が多い一方で、冷暖房による電力需要が少ない時などに発動される。東北電力や四国電力も発動例はまだないが、可能性があるとみて準備を進めている。

送電網の整備も課題に 地域結ぶ連系線を増強
再生可能エネルギーによる電気の有効活用には火力発電所の出力制御のほか、送電網の整備も課題となる。経済産業省は地域と地域を結ぶ連系線と呼ばれる送電線を増強する方針だ。太陽光や風力の発電に適している北海道や東北、九州から、電力需要が大きい首都圏や関西に電気を送る狙いがある。
日本では地域の電力会社ごとの送電網で、原則として電力の需給を一致させる必要がある。太陽光の発電量が多く、供給過多になりそうな時は@火力発電の出力を抑制A他地域への融通Bバイオマス発電の出力制御――の対策をとる。それでも調整がつかないときに再生エネの出力制御を実施する。

経産省は@について、出力を50%以下にする現行ルールを来春にも20〜30%以下にする。経産省がメーカーに聞き取ったところ、最近の大型の石炭火力は出力を30%まで抑えられる設備が多い。20%前後までの引き下げが可能な発電所もあるという。液化天然ガス(LNG)火力発電所は出力を変えやすい。出力を大きく落とすのが難しい高効率を重視した設備や自家発電設備については一定の配慮も検討する。
Aの連系線の増強も進める。電力広域的運営推進機関の参考試算によると、再生エネの発電比率を5〜6割に高めるには、主要な送電網に最大2.6兆円の投資が必要という。このうち九州と中国地方を結ぶ送電網の増強には3600億円、北海道から東京へ運ぶ海底送電線の新設などは1兆円前後にのぼる。財源は電気料金から賄う方向で、実際の増強には時間がかかる。
2021年度補正予算案では、送電線につなぐ蓄電池の設置費用を半額まで補助するため130億円を計上した。出力制御の回避策になるが、まだ高い蓄電池のコスト軽減が課題となる。こうした対策を講じてもなお再生エネの出力制御が必要になった際には、発電事業者の収入を補塡することも検討している。
政府は30年度までに温暖化ガスの排出量を13年度比で46%以上減らす目標を掲げている。再生エネの導入拡大は不可欠だが、火力を絞れば電力会社の採算は悪化する。世界的な脱炭素の流れから火力への投資がさらに落ち込む可能性もある。今冬も首都圏などで電力の供給懸念が生じた。脱炭素と安定供給の両立がこれまで以上に重要になっている。