しかし、これだけでは日本の賃金低下が他国より深刻な理由は説明しきれない。日本では何が違うのか。最大の要因は、低賃金の非正規労働者が急増したことである。1980年代には労働人口の15%だった非正規労働者が、最近では40%近くまで増えている。正社員の平均時給が2500円であるのに対し、派遣社員は1660円、パートタイムは1050円にすぎない。

 これほどまでに大きな影響となった理由は、単純な算数で説明できる。ある経済圏に3人の労働者がいるとする。2人は時給2400円の正規労働者で、1人は1200円の非正規労働者だ。賃金総額は6000円、平均賃金は2000円となる。来年は、正規1人、非正規2人で、それぞれの賃金が変わらないとする。賃金総額は4800円、平均は1600円だけだ。このような変化が、過去数十年の間に日本で起きたのだ。
 さらに大きいのは、非正規労働者の増加が、正規労働者の交渉力を弱めていることだ。2007年から2018年にかけて、正規労働者の実質賃金が1%低下したのもそのためである。

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