肛門はなぜ出し分けができる? 病気と健康の境目とは? 人体の不思議な仕組みのハナシ | ダ・ヴィンチニュース
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肛門は意識もしていないのに、なぜオナラとウンチを出し分けられるのか。改めて言われてみると、肛門の機能は素晴らしい。著者の知人は、肛門の手術を受けて機能が低下した状態を「実弾と空砲の区別がつかない」と漏らしていたそうで、人によっては「私の肛門はたまに気体と液体を間違える」ということもあるだろう。いずれにせよ、機能が正常であれば固体と気体が同時に下りてきても、「固体を直腸内に残したまま気体のみを出す」なんて芸当、著者が指摘しているように人工的なシステムで再現するのは不可能に思える。それを可能にしている肛門には、自分の意図で動かせる「外肛門括約筋」と、意図とは関係なく動く「内肛門括約筋」という2種類の括約筋あるという。便が直腸に下りてくると内肛門括約筋は弛緩するため、便意をもよおすのに対して、私たちは外肛門括約筋を駆使することにより逆らえるのだ。

人体は、普段は当たり前にできていて意識すらしないような、自然で巧妙な仕掛けで動いている。たとえば、海賊が片目に眼帯をしている理由なんかは目の仕組みを知ると興味深い。人間の目は、暗いところから急に明るいところに出ると眩しいのが段々と慣れて見えてくる「明順応」よりも、明るいところから暗いところに慣れていく「暗順応」の方が時間がかかるのだとか。そこで、明るい甲板から暗い船倉に入るさいに眼帯をずらすだけで中の様子が分かるように、眼帯を普段から装着して片目の暗順応を維持しているという説があるそうだ。

本書に引用されている資料によれば、日本における死因別の死亡率の推移を見ていくと、かつて上位を占めていたのは感染症であり、1980年代からは悪性新生物、すなわち「がん」が1位を独走して、いまや全体の4分の1を占めるようになっているそうだ。これは、がんが増えたというよりも「がんになる前に他の病気で死んでいたから」で、世界保健機関(WHO)の調査によれば、低所得国の死因10位以内のうち半分は感染症だという。

そして日本で、がんと心疾患に続いて死因の3位を占めるのは意外にも老衰なのだとか。著者は「日本人の多くは、がんか生活習慣病か加齢で亡くなる」というのが今後の傾向になるだろうと予測している。そこで理解しなければならないのは、病気と健康の境目を定義するのは難しいということだ。どんなに健康な人でも人体に有害な菌は棲んでいるし、棲んでいるからといってそれすなわち病気であるとも判じがたい。新型コロナウイルスの診断に用いられるPCR検査の事情なんかはもっと複雑だ。というのも、PCR検査で分かるのは「ウイルスの断片が存在するか否か」であって、「病気か否か」ではないのだ、と本書で著者は指摘している。同様に、がんは健康な人の体でも絶えず生まれており、「がん細胞が体にある状態」だけでは病気ではないという。亡くなった人の体を解剖すると偶然に前立腺がんが見つかることがあるそうなのだが、その人が「生前は病気だった」と言えるだろうかと著者は問う。

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