https://president.jp/articles/-/52794
 

これまでは高齢者に多い疾患でしたが、最近、出産を経験していない比較的若い女性、特にやせ型の女性の発症が目立っています。

これは大変由々しき事態です。なぜなら子宮が支えられなくなるわけですから、出産も大きく負担になります。妊娠中に子宮口が緩んでばい菌が入ったり(絨毛膜羊膜炎)、流産や早産になったりするリスクが高まってしまうからです。

「尿漏れ」を見逃してはいけない
もちろん骨盤底筋の状態は直接見て把握することができません。しかし、骨盤底筋の緩み・衰えを把握できるサインはあります。それが「尿漏れ」です。

私のところに痛みの治療に来た30代の出産を経験した女性に、初回の問診時に「尿漏れはありますか?」と聞いて驚いたことがあります。「あります。子供を産めば普通に漏れるんではないですか?」と当たり前のように答えたからです。

念のため、私の病院のある20代の女性研修医に、骨盤全脱出についてレクチャーをした際に尋ねてみると「私も尿漏れしています。友人も尿漏れしているので普通だと思っていました」と答えました。

尿漏れは「普通」ではありません。昔は出産を経験した経産婦でも尿漏れは稀でしたが、このやり取りを機に、最近の若い女性の骨盤底筋の衰えを強く憂慮することになりました。

加齢とともに尿漏れの患者さんが増え、成人女性の約25%、つまり4人に1人は尿漏れの経験者という調査もあります。根本的な原因は、妊娠や出産、加齢、肥満、閉経による女性ホルモンの低下で、これらによって骨盤底筋の筋力低下が進みます。

しかし、なぜ出産を経験していない若い女性にも骨盤底筋の緩み・衰えがみられるのでしょうか。私は、その原因は「痩せすぎ体型」にあるのだと考えています。今、若い女性はこぞって痩せていますが、痩せすぎるものも考え物です。

痩せること、体重を減らすことを重視するあまりに筋肉をつけず、脂肪だけが身体についた状態になっている恐れがあります。俗にいう「痩せデブ」の状態は「骨盤臓器脱」予備軍ともいえます。

これは近年の偏った美意識が原因だと考えています。スリムなテレビアイドルに憧れて「痩せよう」という風潮が若い女性たちに浸透しているのではないでしょうか。周囲も「痩せていてかわいい」と褒めますから深層心理に刷り込まれてしまっているように思えます。