
ですが、幸運なことに、地球を出れば太陽系には私たちが実際に使える資源が豊富に存在します。ということは、私たちは選択できるのです。停滞と配給か? それとも活気と成長か? 選ぶのは簡単です。何を望むかは明らかでしょう。
ただ、急がなければなりません。太陽系全体では1兆人の人口でも維持できるかもしれません。そうなれば、1000人のモーツァルトと1000人のアインシュタインが生まれるかもしれません。文明は驚くほど進化するでしょう。
では、その未来は具体的にどんなものになるのでしょう? 1兆もの人がどこに暮らすのでしょう? プリンストン大学で物理学を研究していたジェラルド・オニール教授はこの問題を深く考え抜き、それまで誰も疑問に思わなかったことを問いました。それは「人が太陽系に進出するにあたって最適な場所は、惑星の表面か?」という問いです。
オニール教授はこの問いに答えるべく、学生たちと研究を重ね、直感に反する意外な答えにたどりつきました。答えは「ノー」だったのです。なぜか? 彼らは数々の問題を挙げました。
まず、惑星の表面はそれほど広くありません。最大でも現在の2倍の人口までしか維持できません。それでは小さすぎます。しかも遠すぎます。火星への往復には数年かかりますし、最適な打ち上げの機会は26か月に1回しかありません。これはロジスティクスの面で非常に深刻な問題になります。そのうえ、距離が遠すぎて地球とリアルタイムの通信ができません。光速の限界で遅れが出ます。
● 宇宙に「コロニー」をつくる
もっと基本的な問題もあります。地球以外の惑星の表面は、重力が弱いということです。人間が住めるのは重力のある場所に限定されます。火星の重力は地球の3分の1です。そこでオニール教授のグループは、惑星の表面ではなく、回転による遠心力を使って擬似重力を得る人工的な居住区を思いつきました。この人工居住区は長さ数十マイルにも及ぶ巨大な建造物で、一基につき数百万人が居住できるようなものです。
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このような、いわゆるスペースコロニーは、国際宇宙ステーションとはまったく違います。コロニーの内部には高速輸送手段が備えられ、農業区域も都市もあります。
それぞれのコロニーの重力がすべて同じである必要はありません。遊び専用のコロニーでは重力をゼロにして飛び回ることも可能です。国立公園をつくることもできます。快適な居住環境も確保できます。地球にある都市をまねてコロニーにつくることもできます。歴史的な都市をまねて同じようにつくってもいいでしょう。まったく新しい種類の建築物を建てることもできます。
コロニーでは気候も思いのままです。マウイ島の最高の一日を一年中味わうことができるのです。雨も降らず、嵐もなく、地震もありません。
雨風をしのぐ必要がなければ、建物はどんな構造になるでしょう? それはできてみないとわかりません。ですが、コロニーが美しいものになることは確かです。住みたがる人は多いでしょう。しかも地球から近い場所につくれば、地球に戻ることもできます。人は地球に戻りたいと思うはずですから、これは大切な点です。誰も永遠に地球を離れたくはありません。
また、コロニー間の往来も簡単なものになります。別のコロニーに住む友人や家族に会いにいったり、娯楽専用のコロニーに遊びにいくこともできます。素早く行き来できるので、エネルギーはあまり必要ありません。日帰りも可能です。(中略)
では、このオニール教授の人工居住地構想は、どんな未来につながるのでしょう? これは地球にとってどんな意味を持つのでしょう?
地球は制限居住地区となり、軽工業が行われる場所になるでしょう。そして、住むにも、訪れるにも、美しい場所になることでしょう。大学に行くにも、軽工業を営むにも最適な場所になります。ですが重工業や大気汚染の原因になるような工業、つまり地球に害をもたらすことはすべて、地球の外で行われるようになるのです。
そうすれば、この宝石のような奇跡の惑星を、一度傷つけてしまうともとに戻らない場所を、保護することができます。これ以外に道はありません。地球を救わなければなりませんし、孫やその孫のために活気と成長をあきらめてはいけません。どちらも手に入れることはできるはずです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/08cf115f49edc1db65b9c636db9afdfb183f1921