「現憲法は独立を回復するまでの憲法」安倍晋三が祖父・岸信介という“政治家”を語る

◆政治家には乾坤一擲の勝負を懸けるときがある

私はマックス・ウェーバーが説く「心情倫理」と「責任倫理」で、純粋に倫理観を追求する「心情倫理」、起きたことに責任を取る「責任倫理」が、政治家に求められるものと考えます。
できもしない約束をするのは倫理上、正しくない。しかし約束をしなければ安保条約改定が実現しないかもしれない。
であれば、そこで受ける批判に対する責任を取り、新安保条約を成立させることが国のためだ。それが正しいというメッセージを残す。そういう判断ではなかったか、と。
二つの倫理の緊張関係の中でギリギリの判断をする。これが政治の厳しい現実だと思います。

政治家には、乾坤一擲の勝負を懸けるときがあります。その覚悟で臨んで成就させ、退任と引き替えにした。政治家として岸を評価する点は、そこが一番ですね。
一方、失敗としては、安保国会の前に衆議院を解散しようとしたのに、当時の川島正次郎幹事長の反対でできなかったことです。総選挙で勝利を得て批准に臨めば、状況は違ったと思います。
私の内閣では2014年と17年に2回、解散をしましたが、祖父のことが頭にありました。特に17年10月の総選挙のときは、「やるべきときはやるんだ」という強い思いでした。

憲法については、祖父は「現憲法は独立を回復するまでの憲法」という認識でした。吉田さんも含め、あの時代に憲法制定に関わった政治家は、だいたいそういう考えだったと思います。
祖父は、憲法問題が弟の佐藤栄作首相のときに足踏みしたとの感を持っていましたね。

それでも、祖父が今の日本を見たら、よくぞここまで来た、と思うでしょう。私の内閣で平和安全法制を作り、日本の自衛隊が米艦を防護する共同訓練まで行うようになりました。
インド・太平洋で大きな役割を担い、米国からも頼りにされる状況になった。豪州艦や英国艦の防護もできるようになったのです。

今の自民党の状況を見て、祖父は自民党がまだ続いていることに多少、驚きを抱くかもしれませんね。
自民党の本来の役割と目指す方向をしっかりともう一度、見つめ直せ、と思うのではないかな。私もそのために先の総裁選では高市早苗氏を擁したのですが。

https://bunshun.jp/articles/-/50725?page=1