日本では、いくら大臣が廃止を大声で叫んでも、仕事によってはFAXを止めることが難しい業種も存在する。
セキュリティの観点などからも、FAXを廃止するのは望ましくない分野もある。

その際たる例は、医療現場や警察関係だ。もちろん管轄の省庁などのやりとりも行われている。
そこで医療や警察の現場の声から、なぜFAXが不可欠なのかを見ていきたい。

まず医療関係。都内のある医師によれば、病院などでは、FAXは日常的に使われていて廃止することは考えられないという。
業務で使うパソコンやデバイスは、基本的にインターネットなどにはつながらないようにシステムが作られており、
「セキュリティの問題で、個人情報などが漏洩するリスクがあるためです」と語る。
そのため書類などを電子メールで送信することは考えられず、FAXで送るのが当たり前となっている。

新型コロナの検査結果や、そのほかの患者の検査情報なども、医療機関同士が「受け取った、受け取っていない」
というような問題が起きないようFAXで送って記録として残す意味合いもある。
そうした情報は患者の命にも関わり、一刻を争うこともあるため、電子メールが届いたかどうかといった
確認をしている余裕は現場にはないという。「迷惑メール」に入っていて確認できなかった、なんてことは許されない。

■ FAX全廃が医療崩壊に?

毎日、この瞬間も目まぐるしく患者の治療が行われている医療現場では、これまで当たり前になっている仕組みを廃止して、
直ちにメールなどに移行することになれば、それこそこのコロナ禍に「医療崩壊」が起きる可能性もある。
そんなリスクは負えないため、機能しているFAXを継続するのは合理的な選択だろう。

とはいえ、読者の皆さんも病院ではiPadやデジタルデバイスなどが使われているのを見たことがあるかもしれない。
ただそうした機器も、基本的にインターネットにはつながっていない。「医療現場はかなりデジタル化が進んでいますが、
内部だけでネットワーク化されたイントラネットを使っています。大学病院などで最近、
カルテを近隣のクリニックなどとコンピューターで共有しようという話も浮上していますが、
セキュリティの問題もあってまだ実現するのには課題も多い」

実は、患者の情報などはかなりデジタル化されている。FAXで送られてきた情報を、送る側も、受け取った側も、
パソコンに打ち込んでいるのだ。ただこの面倒なひと手間が実はサイバー攻撃対策には効果的だったりする。

近年、世界的にランサムウェア(身代金要求型ウィルス)による攻撃が増えている。
攻撃者は企業などのコンピューターにマルウェアを感染させると、システムを勝手に暗号化して使えなくしてしまう。
そしてメッセージが表示され、「暗号を解いて欲しければビットコインを払え」となる。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadatoshihiro/20210709-00247099