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駿河湾で深海魚の謎に挑戦 東海大特任助教の村崎謙太さん 「クサウオ」新種を次々発見

日本一深い湾・駿河湾で、深海魚「クサウオ」の新種を続けて発見している若手研究者が東海大にいる。海洋研究所(静岡市清水区)特任助教、村崎謙太さん(29)。大学院時代の5年で4種類を見つけ、現在は研究範囲を全国へ広げる。「駿河湾は神秘の海。まだまだ新しい魚がいる可能性はあり、研究者として魅力的な場所」と話す。
◆富山出身、海に愛着
 富山県魚津市出身。祖父が漁師だったことから、海への愛着があって東海大海洋学部へ。2015年に修士課程に進み、同大の調査で確認されていたクサウオを研究すると決めた。
 クサウオは食用にされるのはまれで、北陸の一部地域で「つまらない」を意味する方言「くさい」に由来するとされる。ただ、海岸付近の浅海から水深8000メートル以上の深海に生息する種がおり、村崎さんは「その適応力を実現する体の構造などを明らかにできれば、医学など他の分野にも役立つかもしれない」と引かれた。
◆数時間かけ、網を深海へ
 月に2、3回の調査では他の研究者らと調査船「北斗」で海へ出て、水深200メートルから最深部の2200メートルの地点で、数時間かけて網を海底付近へ下ろす。設置を終えると、船をゆっくり進めながら網を引き、魚の捕獲を試みる。その後、また数時間かけ網を巻き上げる。
 最大水深2500メートルの駿河湾は、傾斜が険しく海底は粘土質。網が海底に着くと泥が入って破れたり、破損を避けるために調査を中断したりして、成果ゼロで終わることも多いという。「湾内で魚を取るのは難しく、深海魚研究は思うように進んでこなかった」
クサウオの新種4種類は15、16年に捕獲に成功していた。当初は新種とは思えず、過去の文献や標本をどれだけ調べても体の形状や骨の数などが一致せず、頭を抱えた。湾内で水深1000メートル以深からクサウオの仲間が捕獲された事例がなかったこともあり、研究を深め「全部が新種」という考えにたどり着いた。博士課程で体の違いを細かく解明し、17〜19年に新種のスルガビクニン、オナガインキウオ、ミツバインキウオ、スルガノオニビを学会に発表した。
 20年に特任助教となり、調査範囲を全国に広げ、茨城県沖で新種ホムラダマを確認。また、1990年代に北海道沖で採集され、国立科学博物館に標本として所蔵されていたクサウオが新種だったと21年に解明し、ツゴモリハリバンクサウオと命名した。
◆「謎の生態に迫りたい」
 今後も日本全体での研究を進めるつもりだが、駿河湾での研究も完結していない。「北極南極などで新種が見つかることはあるが、地方都市のそばで新種が次々見つかることは世界的に珍しい。ここで、まだ謎の多いクサウオの生態にも迫りたい」と目を輝かせた。