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ギャンブル依存の40代息子に800万円、酒浸り夫に恐怖心…依存症当事者の家族を襲う「共依存」

依存症の克服を目指し、長年闘ってきた福井県内の当事者らを取り上げた連載「『依存症』と向き合う〜福井の現場から〜」に、当事者や家族らからさまざまな声が寄せられた。ギャンブル依存症の息子がいる70代の父親はメールで「家族もまた(過度に世話してしまう)共依存という病気に苦しんでいる」と親としての心情や苦労をつづった。この父親と、自助グループに参加するアルコール依存症患者の家族を取材した。

息子に800万円費やした父「一日中気になって仕方がない」
県内の70代のカズさん(仮名)は約10年間、ギャンブル依存症の40代の息子への支援を続けている。始まりは、当時県外にいた息子から突然かかってきた一本の電話。「ギャンブルで200万円使ってしまった。穴埋めしてくれ」。息子は競馬やパチンコのほか、FX(外国為替証拠金取引)にものめり込んでいた。200万円は家族でためたお金だったという。

 「何とか立ち直ってくれ」という思いから肩代わりしたが、息子はそれ以降もギャンブルをやめられず、消費者金融などから借金をするようになった。滞納した家賃や税金の支払いなどを含め、これまで息子のために800万円近く費やした。自身は10年以上前に退職しており、老後のための資金を取り崩して工面した。

 最初の200万円以降、カズさんはギャンブルの負けを立て替えることはしていないが、共依存だという自覚が現在もあると話す。「引きずられるというか、かき回されるというか。息子のことが一日中気になって仕方がない」
 本人がギャンブルにはまった理由や時期を話したことはなく、借金を実際より少なく申告したこともあった。カズさんは「お金に関しては(息子を)信用していない」と言い放つ一方で「血がつながっているし、見捨てることはできない」と話す。

 息子は今年9月、病気の克服のため福井に戻ってきた。不安はあったが「干渉しすぎてしまう」との思いから別居を選択した。息子は現在、福井市内の回復施設に通っている。父としての願いはただ一つだ。「ギャンブルの誘惑に打ち勝ち、普通の生活ができるようになってほしい」

飲酒を注意すれば暴力振るう夫…「生きている心地しなかった」
 「一つ、アルコール依存症は家族ぐるみの病気です。病気だから治さなければなりません。また、治すことができます」―。福井県越前市の市民プラザたけふの会議室に「誓いのことば」が響いた。第1、3土曜の夜、アルコール依存症患者とその家族が集う「丹南断酒新生会」の例会の一こまだ。

 「飲むことを注意すれば暴力を振るう状態。家族はいつもびくびくして、生きている心地がしなかった。私がお風呂に入れば夫はお酒を買いに行く。止めようがなかった」。依存症の夫の隣で妻のケイコさん(仮名)は、過去の苦労を口にした。例会ではそれぞれの経験や近況を報告し合う。

 自身も患者で7年間断酒している会長の斉藤政弘さん(81)は「家族と参加することで、当事者はようやく自分が迷惑を掛けたことに気付くことができる」と訴える。アルコール依存症患者は飲酒して記憶を失う「ブラックアウト」の症状に陥り、自分の問題行動を覚えていないことが多いからだという。

 70代のクミコさん(仮名)は夫を何とか病気から立ち直らせようと、5年以上前から夫婦で通う。「夫はこの夏から飲んでいない。孫が『じいちゃん、じいちゃん』って言ってくれて、保育所や塾の迎えがあるから。最近では庭木の剪定(せんてい)や野菜作りを一生懸命してくれる。本当にありがたい」と感謝を伝えていた。
 斉藤さんは「今日もやめられたと家族が一緒に喜び、ありがとうと言われることが本人の回復への励みになる」と、家族と共に病気と向き合う意義を強調する。