https://news.yahoo.co.jp/articles/0f8418fd8ac9a1bef91d67a28a8078fd12797224?page=1
〈うちの4歳の長男が自閉症のようで、親からの呼びかけにほとんど反応せず、自分の世界に閉じこもっている。
他の子たちと遊びたがらない。笑わない。他の人と目を合わせないし、触られるのも嫌がる――〉

 あなたのまわりにもこのように悩む親御さんがいないだろうか。発達障害の代表ともいえるASD(自閉スペクトラム障害)の
症状である。近年、日本を含めた先進諸国でこうした子供が激増しているのだ。

 文部科学省によると、ASDの発症者は、調査をとり始めた2006年は3912人、16年は1万5876人、そして19年は2万5635人
となっている。日本でも13年間におよそ6.5倍にも膨れ上がっているのだ。

 ASDは1943年にアメリカの精神科医レオ・カナーによって発見されて以来、精力的に研究されてきた。にもかかわらず、
社会性の欠如、同じ動作をくり返すといったASDの特徴的な症状を治療する薬として承認されたものは、いまだ一つもない。

ASD発症の原因は腸内細菌のバランスの崩れ? 
正常な小腸とリーキーガッの小腸
 だが、ここにきて一縷の希望が生まれている。ASDの治療法の開発において、腸内細菌の活用が、非常に有望視されているのだ。
 脳内に原因があるであろうASDは、腸とは無関係であるかのように思える。ところが、近年、ASD発症の原因は、腸内細菌の
バランスの崩れによるリーキーガット(Leaky gut、腸漏れ)であるとする仮説が提出され、しかも、この仮説を強く支持する
動物実験や臨床試験の結果が次々に報告されているのだ。
 詳しくは拙著『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』を読んでいただきたいが、ここではリーキーガットとは何かを
簡単に説明し、注目されている治療法を解説していきたいと思う。

 リーキーガット? 怪しげな横文字と思われるかもしれないが、リーキーガットは、今では科学・医学の世界における
一流雑誌でもしばしば登場している。一言で言えば、腸の状態が非常に悪いことを指す言葉である。

ASDが発症する二つの条件
 ここで疑問が生じる。脳は、「血液―脳関門」という関所によって守られているはずである。通常、この関所があるため
IL6のような有害物質は脳に侵入できない。だが、この関所がゆるくなっていれば、有害物質が通過し、脳に侵入することも
可能だ。ASDの人の脳ではどうなっているのか? 

 ハーバード大学のファザーノ教授のグループが、亡くなったASD患者の脳と亡くなった健常者の脳を調べたところ
ASD患者の血液―脳関門では炎症が起こり、組織が損傷し、漏れやすくなっていた(発見5)。

「腸が漏れるリーキーガット」と「脳が漏れるリーキーブレイン」という二つの条件が満たされることで、ASDが発症するのだ。

 腸漏れと脳漏れは別個の事象ではあるが、どちらもストレスによって放出されるノルアドレナリンによって炎症が増幅され、漏れやすくなる。

 しかも幼児では、この関門が発達途上にあるため、完全に閉じているわけではないから、有害因子の侵入に対して
脆弱なのだ。関門が完成した大人でも慢性的にストレスを受ける、あるいは、100dB程度の音楽や拡声器の大音量に
さらされるなどによって、この関門がゆるくなることが確認されている。

 ここまでをまとめると、荒れた腸内環境がASDを発症させる原因のひとつであることがわかる。そうであるならば、
健康な人の腸内細菌をASDの子供に移植すれば、症状は改善するのではないか。