米ニューヨーク市の地下鉄で駅ホームからの突き落としなど凶悪事件が急増している。治安改善を目玉に今月就任したアダムズ新市長に期待が高まるが、犯罪抑止の特効策はなく、転落防止のホームドア設置などの対策も巨額の費用がかかるため難題に苦慮している。

 マンハッタン南部の地下鉄駅で23日昼、60代の男性が列車進入の直前、ホームから突き落とされた。列車は緊急停車、本人は軽傷で済んだが、市民らに衝撃が走った。15日には近くの駅で40歳のアジア系女性が突き落とされ、命を落としたばかりだったためだ。

 地元メディアによると、市の地下鉄で昨年起きた殺人、レイプなどの凶悪事件は461件で1997年に統計を取り始めて最悪となった。ホームからの突き落としは30件で一昨年より4件増えた。

 15日の事件では、加害者が精神疾患を抱えたホームレス男性(61)で、暴力犯罪で摘発された経歴があったため、市や警察への批判がわき起こった。数百人とも言われるホームレスが地下鉄で過ごし、多くが精神疾患に苦しんでいるが、市が放置していると指摘されてきたためだ。

 アダムズ市長は「私自身、地下鉄を安全と感じない」と認め「至る所にホームレスがいる。車内では怒鳴り声が聞こえ無秩序感がある」と述べた。地下鉄のホームレス対策や銃を取り締まる私服警官チーム復活などの対応を図る方針だが、短期間の改善は難しそうだ。

 一方、突き落とし頻発で市民からはホームドア設置要求の声も上がる。ただ、472ある駅の約3割の設置だけで費用70億ドル(約8000億円)との試算があり、実現は困難との見方が大勢だ。(共同)