小島慶子「日本が個を認める社会になるには、いい年をした息子たちの“乳離れ”が急務」

私はかねて、日本が変わるには男性たちの穏当な母殺しがなされなければならないと考えています。

精神科医の春日武彦さんや芸人の若井おさむさんは、母親との葛藤を告白し、ネガティブな感情も吐露しています。
両氏に限らず、母との関係に悩む男性は確かに存在するのに、なぜか共感の輪が広がりにくいのです。
女性誌ではしょっちゅう毒母特集が組まれますが、男性向けの媒体ではほとんど見かけたことがありません。

社会学者・品田知美さんの近著『「母と息子」の日本論』では、その謎を解き明かそうとしています。
なぜ女性たちは息子との分離を拒み、高学歴・高収入・高肩書を手に入れさせようと躍起になるのか。
その背景には構造的な問題があるといいます。

母子分離ができないまま成人した男性たちが潜在的に抱く強い母への恐れはミソジニー(女性嫌悪)の源泉となり、
彼らが中枢を占める世の中では、ルールよりも身内意識や内輪の事情が優先され、個人が尊重されず全体主義的になっていく……既視感があります。

母子分離を拒む社会は、自立した「個」を認めない社会です。
品田さんは、日本政治の隠れた対立軸は保守対リベラルではなく“母と子の分離を是とするのかどうか”であると鋭く指摘します。

この8年を振り返るタイミングで読むと、実に多くの示唆に満ちています。
日本が変わるには、いい年をした息子たちの乳離れが急務なのです。
https://dot.asahi.com/aera/2020091000027.html?page=1