医師が主人公あるいは医療現場を舞台にした医療ドラマや医療漫画が数多くあれども、なぜか皮膚科医が主人公のものは存在しない……。それを寂しく思っていた現役皮膚科医で近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、「なんとかしなければいけない!」と行動に移すことにしました。

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私は皮膚科医ですが、2年目に赴任した病院が救急救命科の研修を必修としており、3カ月間、救急医として働いた経験があります。交通事故の患者さんが救急車で運ばれてくる傍らで、お子さんの発熱、急性アルコール中毒の対応、睡眠剤の大量服薬による自殺未遂など幅広く患者さんに対応しました。

患者さんとの人間関係は救急外来だけのものでしたが、ドラマのような展開や人間模様がありました。実際に救急救命科をテーマとした漫画やドラマは数多く存在します。物語において、救急救命は絶体絶命の場面など、多くの見せ所が作りやすいためにテーマとしても取り上げやすいのでしょう。

ほかにも、がん治療医を対象としたドラマや、病理を描いた漫画(後にドラマ化)、医師免許を持つ放射線技師など多くの分野の医者が主人公になっています。医療従事者という広い観点でいうと、看護師や薬剤師も取り上げられ、漫画となりヒット作はドラマ化されています。しかしながら、皮膚科医がドラマの主人公になったことは今までなく、皮膚科医の私は少し寂しい思いをしてきました。

「世の中になければ自分が作ればよい」

何人かに同じようなことを言われましたが、私は脚本家でもなければ漫画家でもありません。それに、自分で皮膚科医をやりながら気がついていましたが、ドラマ化できそうなハラハラする場面に遭遇することがほとんどない……。

このままでは皮膚科医は未来永劫(えいごう)、地味な職業として人々に認識されることになる。なにより、皮膚科医に憧れて皮膚科を選択してくれる医師が減っていってしまう。なんとかしなくてはいけない。誰に頼まれたわけではなく、勝手に使命感を感じた私は、どうしたら皮膚科医が漫画やドラマの主人公になれるのか専門家にお話を聞くことにしました。

相談にのってくださったのは、日本グラフィック・メディスン協会の中垣恒太郎さん(専修大学文学部教授)と、落合隆志さん。日本グラフィック・メディスン協会では、『日本の医療漫画50年史  漫画の力で日本の医療をわかりやすくする』という書籍を発刊し、本邦での医療漫画をまとめています。

「たしかに皮膚科医が主人公の漫画はないですね」

隠れた名作があることを期待していた私はがっかりした気持ちになりました。

「診療科別に漫画を調べてみましたが皮膚科は出てきませんでした」

日本の医療漫画50年の歴史の中でも見つけられないとすると、これは致命的かもしれない。

「そういえば……」

と落合さんが紹介してくれた本は、「皮膚科医デルぽんのデルマな日常」というエッセイ漫画。

はい、私ももちろん読んでいます。デルマな日常は、皮膚科医デルぽんさんが皮膚科医が日常経験するあるあるを時に自虐的に面白おかしく書いた4コマ漫画です。

思わぬところを突かれた感じでした。

確かに、大掛かりなストーリーでなくとも皮膚科医の面白い漫画はある。

「こちらのエッセイ漫画を読んで皮膚科医は研究者なんだなと思いました。皮膚科医の思考回路を紹介すると面白いんじゃないでしょうか」

大きなヒントをもらってから、私はひとつ患者さんとのエピソードを思い出しました。中垣さんと落合さんにその話をしていくうちに、自分でも漫画やドラマの原作として使えそうな内容だと自信を深めていきます。皮膚科医が普段診察で行っていることは謎解きで、名探偵シャーロック・ホームズのようだと気付かされました。

「では、こういった内容で原作を書いていきます」

と、最後は前向きに話し合いを終えることができました。

皮膚科医が主人公でも漫画やドラマは作れる!ということを感じた貴重な時間でした。さて、肝心の原作となるエピソードですが、それはここアエラドットで随時発表していきたいと思います。どうぞお楽しみに。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8982b166ec3243d2fb5db17808a3a452dece58ba