ピエール瀧さん出演映画の助成金取り消しは「適法」、制作会社が逆転敗訴…東京高裁
山下真史
2022年03月03日 15時07分
俳優のピエール瀧さんが刑事処分を受けたことで助成金を不交付としたのは、違法だとして、映画『宮本から君へ』の制作会社が、独立行政法人「日本芸術文化振興会」を相手取り、処分の取り消しをもとめた訴訟の控訴審判決が3月3日、東京高裁であった。

東京高裁の足立哲裁判長は、処分は違法として取り消しを命じた1審・東京地裁判決を取り消し、原告の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。判決後、原告側は「表現活動に影響及ぼす、極めて問題のある判決だ」として、上告する意向を示した。

●東京高裁「社会通念に照らして著しく妥当性を欠いているとはいえない」
判決によると、東京高裁は、ピエール瀧さんが(1)映画のストーリーで欠かせない重要な役割を果たしていること、(2)多数の映画に出演歴のある著名人で、その逮捕や有罪判決は新聞等で連日報道されたこと、(3)その犯罪がコカインの自己使用という重大な薬物犯罪であること――などを認定した。

そのうえで、助成金の内定後に、ピエール瀧さんが麻薬取締法違反の有罪判決を受け、その判決が確定した事実を踏まえて、違法薬物の乱用防止という公益性の観点から、助成金を交付しない決定をしたからといって、その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠いてるとはいえないと指摘。

さらに、映画に助成金を交付した場合には、観客等に対して「国は薬物事犯に寛容である」「違法薬物を使用した犯罪者であっても国は大目に見てくれる」という誤ったメッセージを発したと受け取られ、薬物に対する許容的な態度が一般的に広まり、助成制度への国民の理解を損なうおそれがあるとして、助成金を不交付とした処分は適法と判断した。

●伊藤真弁護士「文化芸術に対する悪い影響を懸念する」
原告代理人の伊藤真弁護士は判決後の記者会見で次のように語った。

「裁判やってれば負けることがあります。ですが、今回は負けて悔しいのではなく、日本の文化芸術行政のレベルの低さを肯定したような判決なものですから、その点で、とても悔しいし、残念に思っています。法律論で負けたというよりは、文化芸術の重要性、価値をしっかり裁判官に伝えられなかった。そこがとても残念に思っています。

今回の判決で、1審で考慮してくれていた文化芸術を尊重しようという意識がまったくみられなかった。逆に、公益という大義名分を掲げれば、何でもできてしまう、そこへの歯止めがまったくない判決でした。

なので、薬物乱用防止が中身ですけど、この公益は国・行政側のさじ加減で、どんな内容にもなりうるもの、それが独り歩きしてしまう危険性・恐ろしさ(がある)。本来ならば、裁判所が歯止めをかけないといけない仕事なんですが、その役割をまったく放棄してしまった。

そもそも文化芸術は国民の多数の意識・感情がどうあれ、それに流されそうなときにあえて竿を刺したり、あえてマイノリティや少数者、国民感情を時にざわつかせる内容かもしれないけれど、そこに価値を見出すものと思うんです。(今回の判決は)国民感情やアンケート調査の声だとか、多数の声に乗っかただけの判決と思えてならない。

芸文振(日本芸術文化振興会)は、本当に文化芸術の発展のことを考えて、そこに歯止めをかけていく。そういう少数や、まだ大きくなっていない新しい文化芸術の発展の芽に助成金を出して育てていく。そして、次の世代の文化芸術を発展させていくことが存在意義だと思います。

単に、薬物乱用防止という文化芸術の本質とかけ離れた価値観で行政が判断して、裁判所が追認してしまったことに、この国の文化芸術行政の国家レベル・行政レベルの低さを垣間見た気がして本当に残念です。文化芸術に対する悪い影響を懸念しています。なんとしても食い止めないといけない思いを新たにしました」

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