プーチンに大きな影響を及ぼす「ある人物」

「プーチンの思想的メンター」「プーチンのラスプーチン」と呼ばれる男がいる。プーチン大統領に大きな影響を与えてきたとされる、モスクワ大学元教授のロシア人哲学者アレクサンドル・ドゥーギン(60)だ。

「おおがらで、あごひげを蓄え、長髪で、ダンサーのように歩く。15ヵ国語を操り、ありとあらゆる本を読み尽くし、酒をストレートであおり、快活に笑い、知識の宝庫で、好人物」

スペイン紙「エル・エスパニョール」で、フランスの作家エマニュエル・カレールは、そんなふうに彼を描写する。

ドゥーギンは30代の頃、彼のことを「20世紀後半、最も偉大なロシアの哲学者」と呼ぶ学生や聖職者、ボヘミアンからなる熱心な支持者を集めていた。そんな彼らを前にドゥーギンは、神風特攻隊や三島由紀夫の話などを美談として語り、やがてロシア軍参謀本部の将校やロシア国防省の戦略家、そしてウラジミール・プーチンも引きつけるようになったという。

ドゥーギンにインタビューをしたジャーナリストのアモス・バーシャッドによると、彼の代表作『地政学の基礎』(1997年刊行)は、とりわけ軍のエリートたちのあいだで広く読まれている。

そこには、彼の世界観がこう記されている──世界は2つの勢力にわかれている。海洋勢力である「永遠のカルタゴ」と、陸の勢力である「永遠のローマ」。この構造は古の昔から変わらない。ただし、今日(こんにち)におけるカルタゴは「アメリカ」で、ローマは「ロシア」である。そしてこの両者は、どちらかが滅亡しない限り終わらない永遠の戦いを続ける。

ドゥーギンの思想

彼は、西側諸国の「退廃的」な価値観を憎んでいるのだ。それは、ジンバブエのムガベ大統領が「ジンバブエは黒人のものであるべきだ」というコメントを受けた、ドゥーギンの発言にも表れている。

「私は黒人を支持する。白人の文明──その文化的価値観、まやかしの、非人間的な世界のモデルは、正当化できるものではない。すべてが白人による地球規模のポグロム(破滅)の始まりへと向かっている。ロシアが救われたのは、我々が純粋な白人ではないからだ。略奪的な多国籍企業、白人でない者たちへの迫害と弾圧、MTV、ゲイやレズビアン──これが白人の文明が生みだしたものであり、こうしたものは排除しなければならない。だから私は、赤、黄、緑、黒を支持する。でも白人は支持しない。私は心からジンバブエの民衆の側に立つ」

ドゥーギンは、フランスのル・ペンやハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相の支持者など各国の極右との繋がりがあり、トランプが大統領に就任したときには「信じられないくらい素晴らしい。人生最良の瞬間の1つだ」と発言したことが米「ブルームバーグ」誌で報じられている。

「フォーリン・アフェアーズ・リポート」に掲載された国際関係研究者アントン・バーバシンの論文によれば、2011年にプーチンが「ユーラシア連合構想」を発表したことで、以前から「ユーラシア思想」を提唱していたドゥーギンの思想にますます関心が集まった。それは、「ロシアは、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要がある」というものだ。

また米誌「フォーリン・ポリシー」いわく、ウクライナについてドゥーギンは著書にこう記しているという。

「領土的野心を持つ独立国家としてのウクライナは、ユーラシア全体にとって大きな脅威であり、ウクライナ問題の解決なくして大陸の地政学を語ることに意味はない」
 
そのため、2014年にロシアがウクライナのドンバスに侵攻すると、ドゥーギンは「欧州を米国から解放する思想が広がった」ことを喜んだ。

さらに「反ユダヤ主義」でもあるドゥーギンは、2013年末にキエフで愛国的かつ親EU派のデモが起きると、それをイスラエルの諜報機関「モサド」の仕業だと非難した。ドゥーギンは親ロシア分離派を支持し「殺せ、殺せ、殺せ」と「ウクライナに混乱をもたらしたウクライナ人」の虐殺を煽ったのだ。その結果、ドゥーギンを大学から解雇する署名運動が起き、2014年に彼はモスクワ大学を去ることになった。

https://courrier.jp/cj/282053/