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第94回選抜高校野球大会が開幕して2日──。大会を生中継しているNHKおよび毎日放送のテレビ画面に、懐かしいあの男性の姿があった。1999年頃から春と夏の甲子園を訪れ、ド派手なラガーシャツに蛍光イエローのキャップをかぶって全試合の観戦を最前列で続けて来た通称“ラガーさん”こと善養寺隆一氏(55)だ。

広陵(広島)対敦賀気比(福井)をはじめ好カード、好試合が続いた2日目にラガーさんが選んだラガーシャツは青と黄色のストライプ柄。ネット上では「ウクライナ国旗の色!?」と驚く声があふれていた。何かしら政治的メッセージを込めた色のチョイスだったのだろうか。コロナの集団感染によって出場辞退した京都国際の替わりに出場した近江(滋賀)がタイブレークの末、長崎日大に勝利した第2試合後、ラガーさんに話を聞いた。

「えへへへ、そこまでは意識していません。(反戦の)メッセージというわけでもありません」

かつてラガーさんはバックネット裏最前列の「A段73列」を定位置にして観戦。中継中は、球審の右斜め後ろに映り込んでいた。このあたりの「中央特別内野席」は当時、自由席だったために、席の確保はいわば“早い者勝ち”だった。それゆえ、席にいち早く到着できる甲子園の8号門の前でラガーさんは寝泊まりし、開門と同時に定位置確保に走っていた。

ところが、時折、居眠りしている姿も中継に映ってしまうラガーさんをはじめ、一部の集団による座席の占拠に批判の声が集まり、周囲とのトラブルも少なくなかった。そうした経緯もあって、2016年春からはテレビに映り込む最前列一帯が近畿圏の少年野球チームが無料招待される「ドリームシート」となり、ラガーさんはひとまず、テレビ画面からは消えた。

そして、昨年はとうとう甲子園にも姿を現さなかった。その理由をラガーさんはこう話していた。

「コロナで大変な時期に、観戦(感染?)してもまずいでしょ。オレもこれまでいろいろ叩かれてきたからさ。あんな格好で甲子園に行って、万が一、テレビに映ってしまったら、また面白おかしくネットで書かれてしまうから」

昨夏も甲子園には姿を見せず。ところが、この春、突然の帰還である。コロナのオミクロン株のまん延が収束に向かっているとはいえ、何かしら心境の変化があったのだろうか。

「やっぱりさ、ここには他の球場にない僕自身の歴史もあるし、思い入れもある。今回、3年ぶりに来ましたけど、やはり最前列で観戦するのは迫力がありますね」

しかし、中央特別内野席は指定席となっており、席の指定は自動で行われるため、狙った位置の席などそうそうゲットできないはずだ。それを指摘すると、ラガーさんは「ほら!」と言って、「A段72列」と印字されたチケットを見せてきた。かつての定位置の隣席で、テレビ中継中は球審のほぼ背後となる。投手が投球時にいやが応でも目に入ってしまう位置だ。

「もちろん、ちゃんと購入したチケットですよ。今日だけたまたま最前列が取れたんですよ。本当に運良く、ね。ネットで僕のことが話題になっている? 本当? 正当にチケットを取ったんだから、何も問題ないでしょ」

とはいえ、投手が白球を投じるその先に、ド派手なラガーシャツや蛍光色の帽子を被った人物が座っていたら、ピッチングに支障が出ないか心配にもなってしまう。ラガーさん自身が観戦マナーに考えが及ぶことはないのだろうか。

「多少はね。ただ、悪いことしているわけじゃないからね。何度も繰り返すけど、正当に取ったチケットだから。僕自身、この辺の席ならば、どこでもいいんですよ。テレビに映ろうが映るまいが、関係のないことだから」

3日目以降も再び最前列に陣取るのか──。最後に訊ねた。

「チケットの争奪戦は激しいし、大会後半のチケットの発売はこれからでしょ? 準々決勝のチケットは人気だから簡単には取れないだろうね。昔みたいに、通し券じゃないから、チケットを入手できないこともあるかもしれない」

決勝まで観戦を続けるかどうかについては、チケットの4次販売以降の入手状況次第によって「流動的です」と答えたラガーさん。新たな配色のラガーシャツに着替えて第3試合の観戦に備えていた。

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