本気で告白された「ヤクルトに移籍したい」

 ヤクルト担当を離れてからは、逆にその“業界内人気”を実感した。他球団の選手を取材する際、「元ヤクルト担当」と名乗ると、「チームの雰囲気が楽しそう」、「自由に野球ができそう」と言われること多々。主力級の選手から本気で「ヤクルトに移籍したい」と打ち明けられたことも一度や二度ではなかった。選手層が厚くないために試合に出るチャンスを得やすいという理由もあるだろうが、職場環境のイメージは間違いなく業界ナンバーワンだろう。

 他球団に移籍した選手からは、こんな話を聞いた。試合前、ヤクルト時代と同じ感覚で、対戦相手のクセや攻略法などを同僚に教えると、ひどく驚かれたという。たとえチームメートでもライバル同士なのだから、情報を教え合う必要などないと思っていた、と。「別のチームに行ってみて初めて、ヤクルトの野球の緻密さが分かった」――。特に攻撃面ではカウント別に細かい決まり事があり、前後の打者や走者を含めて揺さぶりをかけ攻略する。野村克也監督時代の「ID野球」とは、「弱者の野球」でもある。個々の能力ではなく、「みんな」で「強者」に立ち向かうという意識は、今なおチームに根付いている。 

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