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論文本文

若者が親から自立できない地方労働市場

われわれの研究のなかで,中澤は図 2 で調査対 象者の年齢と手取りの月収をプロットした図を示 した(石井・宮本・阿部 2017:150)。地方におけ る標準とは何かがここから見えてくる。
地方において年功型賃金に該当するのは,公務正規と,か ろうじて医療・介護・保育や民間正規の部分にす ぎない。さらに,40 歳近くになっても月収手取 り 20 万円は超えられず,10 万~ 15 万円に集中 する。

中澤は,インタビュー調査もふまえて,ここか ら手取り 15 万円を自立可能な収入に,手取り 20 万円を家族形成可能な収入と仮定できることを導 出した(石井・宮本・阿米2017:153)。家賃負担 が可能で自立生活が成り立つ 15 万円と,貯金が でき,地方では必需品である車関係や携帯代を払 い,かつ女性が子育て期間中に働けなくても何と かなる金額が手取り 20 万円である。

しかし,地方でこの水準を超える就労先は少な い。不規則かつ長時間働く派遣や請負で集中的に 稼ぐことも可能であるが,健康上に問題を生じ, 長続きはしない。仕事の選択は地理的移動や社会 的階層の移動をも伴う。
その仕事の賃金が生活や社会階層を規定し,個人の価値観に影響を与え る。正社員志向もこの考えから生じていると考え られる。
一方で,現実はこれまでみているように 生活を安定化させる標準コースはますます縮小化 し,地方では不安定な生活を余儀なくされつつ, 特に女性や低学歴者を中心に地方に閉じ込められ ている。