「正しい筆順」は左利きには書きづらい

――漢字の筆順についても厳しく指導されるケースがあるようです。

現在の筆順の指導は、文部省(現・文部科学省)によって1958年に刊行された「筆順指導の手びき」がベースになっています。この手びきには漢字の筆順や原則が示される一方で、「取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものではない」と書かれています。実は、制度として「正しい筆順」と呼ぶことができる筆順は存在しないのです。しかし、現状はこの手びきをもとにした筆順が教科書に掲載され、あたかも一つの正解であるかのように扱われています。以前より少なくなったとはいえ、まだ公立高校の入試で筆順を出題している自治体もあり、このことは問題だと思います。

「正しい筆順」で書くと、書きやすく読みやすいと言われることがありますが、必ずしもそうとは限りません。特に左利きの人にとっては、筆記具の持ち方を工夫しないと左から右に引く線が「押し」の動きになり、非常に書きづらいものになっています。

一方で、特に低学年の先生の立場からすると、混乱を防ぐために一つの筆順を教えるしかないところはあります。毎年担任が替わることを考えると、自分のクラスだけ異なる指導をするのも難しい。このことは個々の先生でどうにかできる裁量を越えているので、学習指導要領や教科書で、筆順についての考え方を段階的に学んでいくことを位置づける必要があると思います。いつまでも「正しい筆順」が唯一のものであると認識させ続けてしまう教育からの脱却が必要です。「正しい筆順」と異なる筆順で書くことは恥ずかしいことではありません。