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コロナ禍のリアル6


「自分たちはアプリの延長なのかな」無言で目も合わさない客もいる
豊洲に着いたころには日が落ちて、気温も下がります。沿岸部に近づくにつれて、タワーマンションが目立つようになりました。「タワマン」の合間に吹く強く冷たい風に逆らうように、鈴木さんの自転車が抜けていきます。


「調子がいいとこんな感じですね。コロナが流行してからドア先に商品を置いて配達を完了できる“置き配”を希望する人が7割近いので、お客さんの顔を見ないことも多いかな」

コロナで外に出にくいからこそ、増える注文。鈴木さんは、顔を合わせない配達に慣れながらも、複雑な思いをすることもあると明かしてくれました。

「マンションのエントランスでオートロック越しに声をかけても、無言で解錠ボタンをカチャカチャカチャと押す音だけが響くことも多いです。“置き配”ではなく対面で注文された人の中にはドアが開いても無言のまま、目も合わさずに商品だけつかんで扉を閉める人もいます。狭いドアの隙間から手だけが伸びて、商品を指にひっかけてあげたらそのまま引き入れようとして料理が落ち、舌打ちをされたこともあります」

鈴木さんはくり返し、「会話してほしいと言っているわけではないんです」と言います。

「もちろんお客さんですし、すごく大事にされたいわけではないんですけど、ちょっと寂しいなと思うこともあります。届けているのは人でも、アプリの延長のような感覚なのかなと」

鈴木さんはこの日も、遅くまで仕事を続けました。

80歳の母を気にしながら“外”で働き続ける
鈴木さんの住まいは東京・東久留米市です。80歳の母親と、築50年の公営団地で2人暮らしをしています。高校を卒業してから働いていた運送業の仕事をやめ、去年からフードデリバリーの仕事を始めました。

主に配達するエリアにしている銀座までは、自宅から電車で移動して1時間あまり。
高齢の母親をコロナに感染させてはいけないと、帰宅したらすぐにマスクを熱湯で消毒して風呂に入るなど、出来る範囲で対応しながら、ほぼ毎日“外”での仕事を続けています。

リモートで仕事をしたり「巣ごもり生活」をできたりする、“内”にいる人たちをどう思うか、鈴木さんに尋ねました。
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