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小室哲哉さん「AIで作曲の効率向上」 理研で研究開始
理化学研究所は2022年3月から音楽家の小室哲哉氏を客員主管研究員に迎えた。音楽の科学的分析に強い理研の浜中雅俊チームリーダーと、人工知能(AI)を使った作曲支援システムを開発する。小室氏は「AIで作曲活動を効率化できる」とみる。両氏に共同研究の狙いを聞いた。
――小室氏の研究員就任のきっかけは何ですか。
浜中氏「AIに興味を持っていると伝え聞き、21年9月にお会いして私の研究や技術を紹介した。(AIでメロディーを複数合わせる)メロディーモーフィングに興味を持ってくれた。プロの目から見ても使える技術にするのが重要だと思い、研究員就任を依頼した」
――AIで何ができるのでしょうか。
小室氏「作曲家は昔からピアノやギターなどで作曲していた。その後、(電気を使った)エレキギターなどが登場し、全く違う音が出せるようになった。シンセサイザーはつまみで音源などを操作することで想像を超える偶発的な音色、リズムが出てくる。多くのアーティストが偶発的なきっかけで作曲してきた」
「ただ偶発的なものは、故意には作れない。自分の曲をAIが学習し、なぜそうなったのかを数値にできれば、逆に(作曲につながる音を)AIから出すこともできる。そうすれば作曲を支援してもらえる」
――作曲活動を効率化できるということですか。
小室氏「(効率化できるのは)間違いない。ゲーム音楽、インターネット配信映像、アニメ向けとか、20年前に比べ音楽の需要は大きくなったが、マンパワーはそこまで増えていない」
「何百、何千も引き出しがある音楽家はほとんどおらず、作曲を効率化する必要がある。特にゲーム音楽はAIが担ってもよいのではないか。ゲームをやる雰囲気のための音楽に、人が相当な労力をかけている」
――AIで作曲した楽曲を小室さんがリリースすることになるのでしょうか。
小室氏「久しく音楽でびっくりするような革新的なことが起きていない。何かしら音楽に関心を持ってもらう材料になると思うので関心はすごいある。AIと人との関わりについていろいろな議論がある。音楽も人との共存について議論が始まるのは大きなことだ」
――研究成果は多くの音楽家の作曲を手助けする汎用的なものになりますか。
浜中氏「音楽家の個性を抽出するために何曲必要かは分かっていない。(小室氏のように)1600曲も作った人は少ない。これでできなかったら(ほかの人も)厳しいな、というのはある。何曲必要かという研究もしたい」
小室氏「電子楽器メーカーと30年以上付き合いがあり、今も最新の機材に触れる機会がある。研究との懸け橋になり、メーカーの向こうにいる多くの音楽家への(利用の)広がりをお手伝いできると考えている」
個性を作るのはまだ先
AIの応用範囲は創作活動にも広がりつつある。小説執筆や絵を描かせる取り組みのほか、音楽でもビートルズやモーツァルトが作りそうな新曲をAIが作った例がある。
本格活用に向けて研究開発の余地は大きい。浜中氏は楽曲の構造を科学的に分析する「生成音楽理論(GTTM)」をAIと組み合わせ、複数のメロディーを違和感なく重ねる技術などを開発してきた。「現時点ではAIが個性を作るのは難しい」として、音楽家の支援が有望だとみる。
著名な音楽家が自分の曲をAIに分析させ、作曲システムを研究者と作る取り組みは珍しい。小室氏はAIで「音楽家が自分ではわかりにくい個性や強みを知ることができる」と話す。
数々のヒット曲を生み出した音楽家と日本を代表する研究機関との異色のタッグが生み出すAIはどんな曲を奏でるのだろうか。