「増え方が尋常ではない」オレオレ詐欺 固定電話は「かける」専用に

息子や孫ら親族を装って金銭などをだまし取る「オレオレ詐欺」の神奈川県内での被害が急増している。県警によると、2022年1月から3月までの被害額は21年同期比で約4倍にも上った。県警は事態の更なる悪化を食い止めようと、「緊急対策」と銘打った防止策に乗り出した。


 「増え方が尋常ではない」。今年のオレオレ詐欺被害統計の数字を見て、県警幹部がつぶやいた。21年12月ごろから被害が急速に増え始め、22年1〜3月の認知件数は、21年の同じ時期と比べて121件多い167件だった。被害額は約4億600万円で、21年の同時期より3億円以上も増加した。


 警察庁によると、親族をかたるオレオレ詐欺の手口は03年から目立つようになり、翌年から統計を取り始めた。全国的にさまざまな対策を講じたこともあり、09年の全国の被害額は統計開始時より140億円近く少ない52億円ほどまで下がった。


 しかし11年以降に再び増え始め、年間100億円以上(キャッシュカードなどをだまし取る預貯金詐欺を含む)の被害を継続的に記録。さらに21年末からは、大都市圏を中心に急増している。「なぜ今、オレオレ詐欺が増えているのかわからない」。県警幹部も頭を悩ませる。


 特殊詐欺の捜査関係者は「何よりもまずは犯人をつかまえ、根をたたなければならない」と話すが、複数のグループが競うように犯行を繰り返している可能性もあり、根絶は容易ではない。現金を取りに行く「受け子」ら組織の末端を検挙しても、グループの核心に関する供述を得るのは困難を極めるからだ。


 実際に、県警は2月11日に「受け子」と電話をかける係の「掛け子」の2人を検挙し、4月13日までに計3度の再逮捕に踏み切ったが、事件の全容解明には至っていない。


 捜査関係者によると、最近の手口は「古典的で初期に原点回帰している」という。22年1月から3月に県内で起きた事件で、犯人グループの要求名目は「カバンの紛失」と「仕事上のミス」の二つが70%以上を占めた。


 「カバンを忘れた。中に会社の重要な書類や小切手、通帳などが入っていた。取引に金が必要」「会社のお金で浄水器を買ったが売れなくて会社に損害を与えた。会社に返さないとクビになってしまう」。高齢者の固定電話に狙いを定め、息子や会社関係者を装った複数の実行犯が立て続けに電話をかけてくる「劇場型」のパターンが後を絶たない。


 被害拡大を食い止めるため、県警は3月31日に「オレオレ詐欺防止緊急対策会議」を開催。県警本部と県内のすべての警察署をオンラインでつなぎ、被害防止キャンペーンの実施、高齢者への戸別訪問での手口紹介、現金自動受払機(ATM)への見回り、金融機関との連携などを推進することを呼びかけた。


 早速、22年の特殊詐欺の認知件数で県内ワースト2位の鶴見署では新たな取り組みを始めた。短文投稿サイト「ツイッター」の新規アカウントを4月4日に開設。特殊詐欺の発生を積極的に発信するとともに、若手署員らを中心に「固定電話を『かける』専用にしませんか? 特殊詐欺のほとんどが固定電話に出ることから始まります」などと、予防を呼びかける投稿を随時行っている。


 鶴見署の片山真署長は取材に「高齢者がツイッターを見なかったとしても、投稿を見た子供や孫世代から伝えてほしい」と意図を説明する。


 県警は「創意工夫を凝らした各種対策」(則次誠二郎・県警生活安全部長)を推進し、被害拡大を封じ込めたい考えだ。【鈴木悟】


https://news.yahoo.co.jp/articles/d2c7062db425865a215287f97af0bbd35a37ac20