【鴻上さんの答え】
 ほんだ33さん。大変な目にあいましたね。まさに「高い授業料を払った」状態ですね。

 この言い方、ドラマでもよく聞きます。ほんだ33さんのようにひどい目にあった人を慰める表現で、突き放しているように感じる人もいるかもしれませんが、僕は案外、的を射た表現だと思っています。

 ほんだ33さんは、うんと高い授業料を払っていろんなことを学んだんです。

「結婚したいと思うぐらい人を好きになる気持ち」や「僕がなんとかしてあげたいという愛おしい気持ち」「愛した人と身体を重ねる幸福」「愛した人を幸せにしたいという生きがい」などです。

 だまされたんだから、そんなことは意味がないと思いますか? でも、この2年強の間、ほんだ33さんは、これらの感情や気持ち、生きがいをリアルに感じていたんじゃないですか? その体験と記憶は、今がどうであれ、確かに存在したものなんじゃないですか?

 中学・高校時代、何か部活はやりましたか? 例えばバスケットボール部にいて、3年の最後の試合で負けたからといって、すべての努力が無駄で意味がなかったとは思わないでしょう? たとえ結果は散々でも、1年から練習を続けた体験は愛おしく、貴重なものだったはずです。

 ほんだ33さんは、さらに学んでいます。「世の中にこんなことをする女性がいるんだ」という衝撃的発見です。

 そして「いったい、なにがまずかっただろう」「どうしたらよかっただろう」「どうして信じてしまったのだろう」という自分自身への問いかけです。これが、「高い授業料」を払って学んだ核心部分です。

 ほんだ33さんは、「もちろんその約束に不安はあったので何度も確認しました」と書かれています。つまり、完全にのぼせ上がって、判断力を失っていたわけではないのです。でも、どんなに親しい仲でも借用書を書いて欲しいと言わないで、「そのたびにそんなことはないと言われ、信じてしまった」のですよね。

「好きであることも伝え、その女性も感謝しているし返済が終わったら付き合うと言ってもらえた」という表現も重要だと思います。「好きであることも伝え、相手も私を愛している」ではなく「感謝している」という表現を彼女は使ったわけです。そのことをほんだ33さんは冷静に分かっていたのですよね。

「何度過去のLINEを見返しても騙していると思えなかった」と書かれていますが、つまり人は口よりも文章では簡単に嘘をつけるということも学んだんじゃないでしょうか。面と向かって嘘を言うのはなかなかエネルギーがいります。でも、LINEになら、なんでも書けるのです。

 何のためにこんなことを書いているのか? 僕は、「彼女という授業」を終えて、ほんだ33さんが何を学んだかを振り返って(フィードバックして)いるのです。

 それはね、ほんだ33さん。「2年間を無駄にしてしまい」と書かれていますが、僕は全然、そうは思ってないからです。まさに天国から地獄ですが、じつに学びの多かった2年だと思います。いえ、もちろん、ほんだ33さんがこの学びから目を背ければ、無駄になるでしょう。

 でも、「得たものと失ったもの」「気づけたことと気づけなかったこと」「目がくらんだこととじつは目に見えていたこと」をちゃんと分けることができたら、間違いなく次の人生へとつながると思います。

 彼女と「きちんと話し合えれば少しは気持ちの整理もつくと思う」と書かれていますが、もしそんなチャンスがあってもあまり意味はないと僕は思います。彼女がどんな気持ちでほんだ33さんと接していたのかは、今となってはもうどうでもいいことです。

「もう結婚もできないと思います」とも書かれていますが、これが年齢のことなら、世の中の43歳以上で結婚している人達に失礼でしょう。傷心のあまりなら、学びを整理していけば、結婚のチャンスはまたやってくると思います。

 ですから、「ご相談したいのは、これからどういう気持ちで生きていけばいいのかということです」に対する回答は、今は200万円という高い授業料で学んだことをゆっくりと振り返ることです。可能なら、「全く楽しくない仕事」をリセットすることも大切でしょう。

 そして、時間をかけて学び成長し、ほんだ33さんの次の人生を始めることをお勧めします。大丈夫。時間はたっぷりあります。まだまだ、人生、先が長いんですから。