円安が刺激、アジアの「潜在インバウンド」:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00016_S2A420C2000000/

対米ドルで一時約20年ぶりの円安水準は、アジアの国々・地域でも大きな話題となっている。特に日本人気が高い香港や台湾では移動制限の解除後、お得に日本旅行や日本での消費を楽しめるとみて、円を買う動きが出始めた。割安に取得できる日本の不動産など資産運用への関心も高まっている。人々は円相場をにらみながら、心を日本に飛ばしている。

旅行回復見据え、少額ずつ両替

「とりあえず5万円相当両替した。3000香港ドルちょっとで済んだね。うん、後で日本に行くつもりだよ」――。香港島の両替店で日本円を買っていた男性2人組。1人は話している間にスマートフォンでレートの電子表示をパチリと撮った。いくつかの店を見比べて少額ずつ両替している。記者が「円安はまだ進むと思いますか」と聞くと、「そろそろ底打ちじゃないかな」。「下がったらまた両替すればいいよ」とうなずきあっていた。

訪日観光への期待は台湾も同じだ。台湾メディアの聯合報(電子版)は18日、「ウィズコロナ時代、円安は悪いことではない」との識者の意見を紹介した。円安が日本の観光業の隆盛をもたらすとしたうえで、「周囲にコロナ後、どこに旅行したいか聞いたら、日本という答えは多いはず」と日本人気の根強さを強調した。

円はアジア通貨に対しても下落基調で、対台湾ドルではQUICKなどでデータを取得できる1998年6月以降で最安値圏。対香港ドルでもデータがある2003年3月以降で最安値圏にある。

香港ヤフーが3月30日〜4月6日に2万人超を対象に実施した意識調査によると、旅行に備えた円への両替は「様子を見る」が47%超と最多だった。ただ、「円安進行なら両替すべし」も35%と、「決めていない」の18%を大きく上回り、日本旅行の資金確保を念頭に、両替に関心を持つ人も多い様子がうかがえる。日本の観光庁のデータでは、香港からの訪日客は新型コロナウイルス禍前の19年に前年比4%増の229万人。台湾からも3%増の489万人で、ともに過去最高水準だった。

より大口の資金が動き始めた気配もある。香港で資産運用業務に携わる日本人女性は、「香港で運用していた年金や保険を解約したいとの相談が増えている」と明かした。日本の物件を専門に扱う香港の不動産仲介店の店頭には、「日元新低位(円が最安値)」との文字が踊る。「お客さんは多いですよ。オンラインでの物件見学を準備して、訪日できないハンディを補っています」。店員は自信に満ちた表情を浮かべた。