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鉄道版「ドラレコ」7割導入 安全を追求 福知山線脱線事故17年

鉄道の運転状況を映像で記録する鉄道版「ドライブレコーダー」の設置状況について、産経新聞がJRと大手私鉄の計22社を対象に調べたところ、約7割が導入していることが明らかになった。乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故から4月25日で17年。専門家はドラレコの設置が事故原因の解明だけでなく、運転技術向上や事故回避にもつながると指摘し、さらなる広がりに期待を寄せる。
鉄道版ドラレコは、車両編成の先頭の運転席に設置し、運行中の前方の映像や音声などを記録。福知山線脱線事故後の国の検討会を受け、2006年に速度やブレーキ操作を数値データで記録する「運転状況記録装置」の設置が義務化される一方、ドラレコは義務とはならなかったが、検討会で設置が望ましいとされた。

 事故から17年となる今月、JR6社と私鉄16社に対し、ドラレコの設置状況などを尋ねたところ、JR西日本と私鉄3社が全編成に、その他のJRと私鉄計6社が大半・一部の編成に設置していると回答。試験的に設置している5社も含めると、計15社が導入していることが分かった。

 多くの社が設置理由に挙げるのは、事故の原因究明だ。鉄道事故は減少傾向にあるが、20年は518件で447人が死傷。事故で警察が現場検証する際にドラレコ映像を活用することで、運転再開までの時間を短くでき、安定運行につながるという。
 JR西は脱線事故後、運転状況記録装置とともにドラレコの設置を進め、13年に全編成で完了。特急1編成で試験的に設置しているJR九州は、21年4月に台湾で49人が死亡した事故をきっかけに導入の検討を始めたという。

 ドラレコの他にも、カメラと画像解析技術の組み合わせで安全性向上を図る取り組みも進む。JR東日本では、2台のカメラで線路上の障害物をリアルタイムで検知し、事故回避を目指す。23年度から運行車両にも搭載しデータ蓄積や機能改善を進め、将来的に運転士の支援や自動運転技術の向上につなげたい考えだ。

 一方、「事故発生時の状況は、運転状況記録装置などによって客観的に把握できる」(近畿日本鉄道)、「搭載によって安全性が向上するというものではないため、優先度は低い」(西武鉄道)といった理由から、ドラレコ設置まで踏み込まない事業者もある。

 ある鉄道関係者は「ホームからの落下などの人身事故対策が重要になっており、業界でもホームドアの設置などが進められている」と指摘。阪神電鉄は「高架化によって踏切事故そのものをなくす取り組みを優先している」という。

 専門家の間でも、事故の要因が多い車と違い、レールの上を走る電車のドラレコは効果が限定的との見方もある。ただ、鉄道の安全に詳しい関西大の安部誠治教授(交通政策論)は「運転士がドラレコの映像を見て、自身の運転を振り返ることができるなど教育的な意味での効果が大きい」と指摘。「重大事故の検証でも運転士が死亡したときなどは、映像によって事故の具体的なイメージを把握することができる」と導入の意義を話している。