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6カ月隔離も、日本「ペット持ち込み」厳しい事情
ウクライナ避難民のペット帯同で話題に

ロシアによるウクライナ侵攻のニュースを見るたびに、深い絶望を感じている人は多いことでしょう。こうした中、日本にはウクライナからペットを連れて命からがら避難してくる人もいます。

今回、ペットが検疫所で隔離中だった避難民の1人が「54万円の費用が払えなければ、愛犬が殺処分されてしまう。愛犬を助けて」と訴えてニュースになりました。いまや犬は家族の一員なのに、こんなことをする政府に対してなんと冷たい処置をするのか、動物検疫について注目が集まりました。

日本は、ペット検疫の書類が整っていないと180日間、つまり半年もの隔離期間がある国なのです。なぜ、動物検疫があり、そして、約6カ月にも及ぶ隔離期間がいるのかを科学的な観点から見ていきましょう。

「180日間」係留の根拠
動物検疫とは、動物の病気の侵入を防止するため、世界各国で行われている検疫制度で、日本だけで行われているわけではありません。海外から輸入される動物・畜産物などを介して家畜の伝染性疾病が国内に侵入することを防止するほか、外国に家畜の伝染性疾病を広げるおそれのない動物 ・畜産物などを輸出することも目的です。

ペットの話に戻しますと、日本に輸入される犬は、狂犬病とレプトスピラ、猫は狂犬病が伝播されることを予防することを目的にしています(サルはエボラ出血熱とマールブルグ病)。

今回、犬が180日もの間係留されるのは、あまりにも長すぎるのでは、と注目されましたが、その理由は犬の狂犬病の潜伏期間にあります。一般的には、犬の潜伏期間は2カ月ですが、最長180日以上にもなるので、そのあたりを考慮して180日間になっています(人の場合は、潜伏期間が数年になることもあります)。
潜伏期間とは、病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間。いまは症状が出ていないけれど、ひょっとしたら狂犬病にかかっているかもしれないので、潜伏期間中に係留してその間に異常がないか観察することが大切なのです。

「ウクライナ難民の犬は狂犬病の抗体価をちゃんとチェックしているから大丈夫ではないか」と思うかもしれませんが、狂犬病の抗体価はあくまでもワクチンを打っているということを示すに過ぎません。

世界保健機関(WHO)によると、現時点で、世界で狂犬病が発生していない国・地域(狂犬病清浄国)は、日本やオーストラリア、イギリスなど世界で11カ国しかなく、ウクライナはこの中に含まれていません。つまり、狂犬病の犬がいる国のため、ワクチンを打つ前に感染している可能性もあるわけです。

狂犬病は、統計学上、ほぼ犬から感染する人畜共通感染症で、発症すれば治療法はなく、ほぼ100%亡くなる死の感染症です。このため、日本の動物検疫の書類がそろっていない場合は、180日もの長い係留期間があるシステムを設け、国民の安全を守っているのです。

ウクライナ避難民には特別措置
こうした中、松野官房長官は4月22日、ウクライナからの避難民が連れてきた犬について、「避難民がペットの出国の準備をする間もなく国を追われ、(狂犬病に感染していないことを示す)証明書の発給が困難な状況にある」と説明。狂犬病のワクチンを2回打っているなど、一定の条件を満たしていれば特別措置として、飼い主と共に過ごせるようにしました。

もっとも、同長官によると、「現時点で5頭の犬が日本に避難していて、いずれも動物検疫所にいる」とのこと。つまり、まだ飼い主とは共に過ごしていないのですが、今後動物検疫所を離れて、飼い主とともに暮らす場合は、逃がさないこと、そしてほかの犬と接触させないことを徹底する必要があります。

そして、こうした環境が守れる住環境を提供しなければなりません。散歩に行くことは難しいので、住宅は庭つきのそれなりの広い敷地がいるでしょう。