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新型肺炎、中国ピリピリ春節で30億人移動、日本へも

中国・武漢市で集団発生している、新型コロナウイルスによる肺炎が日本でも初めて確認された。厚生労働省が16日、発表した。中国では24日から大型連休に入り、人の大移動が始まる。武漢市は日本企業も多く、行き来も激しくなる。感染は広がりを見せるのか。厚労省は現時点でヒトからヒトへと感染が拡大するリスクは低く、過度な心配は必要ないとしている。
厚労省や政府関係者によると、新型コロナウイルスの感染がわかったのは、神奈川県在住の30代の中国人男性。男性は武漢市に滞在していた3日に発熱し、6日に武漢市から帰国。同日、神奈川県内の医療機関を受診した。当初は軽症だったが熱が下がらず、10日に県内の別の医療機関を受診。X線検査で肺炎の症状がわかり入院した。
その後、重症化のおそれが出てきたため、14日に医療機関が最寄りの保健所に相談。保健所から厚労省に報告があり、国立感染症研究所が男性の検体を調べたところ、15日夜に新型コロナウイルスに感染していたことを確認した。男性は症状が軽快し、同日に退院し、自宅で療養している。
コロナウイルスは動物や人に感染し、風邪や肺炎を引き起こす。武漢市での患者の多くが海鮮市場に出入りしていたが、男性はこの市場には立ち寄っていないという。ただ、今回の新型コロナウイルスとの関連はわかっていないが、肺炎の患者と現地で生活していた可能性があるという。
国内の空港では今回の問題が起こる前からサーモグラフィーによる入国者の発熱の確認をしている。男性は帰国する際は解熱剤をのんでいて熱が下がっていた。厚労省は、男性の家族など帰国後の接触者の経過観察をしているが、今のところ発熱などの症状は出ていないという。(土肥修一)
中国政府が厳しい報道規制
日本で初の感染者が見つかったことについて、中国外務省の耿爽副報道局長は16日の定例記者会見で「まだ状況を把握していない」としたうえで、「中国は世界保健機関(WHO)などの国際組織に、積極的に事態を報告し緊密な連携を取っている」と述べた。
武漢市当局のこれまでの説明によると、原因不明の肺炎患者が最初に見つかったのは昨年12月8日。その後、発熱や呼吸困難を訴える市民が相次ぎ、専門家グループは1月9日に新型コロナウイルスが検出されたことを発表した。市内で感染が確認された患者は16日時点で41人で、うち61歳の男性1人が死亡、6人が重症となっている。13日には、タイを訪れた61歳の女性が感染していたことも明らかになった。
中国政府には、2002〜03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の苦い経験がある。初動の遅れもあり、WHOの報告によると、29の国・地域に感染が拡大し、少なくとも774人が死亡した。
1月25日の春節(旧正月)と前後の連休で、中国政府は延べ30億人が移動すると予測。感染拡大への懸念も強まるなか、市民がパニックに陥らないよう報道にも神経をとがらせる。武漢のメディア関係者によると、今回の新型ウイルスについては当局がすでに厳しい報道規制をかけているという。
武漢は日本との関係も深い。日本貿易振興機構(JETRO)武漢事務所によると、在住する日本人は約460人。長期出張者や留学生を含めると500〜600人が滞在するという。日系企業はホンダや日産など自動車関連を中心に、約160社が進出している。
近年の訪日客の増加を受け武漢と日本各地を結ぶ直行便も増えており、東京、大阪、名古屋との間で週約30便が往復するほか、上海経由の福岡便もある。(北京=冨名腰隆)
専門家「感染の広がり、重症化の可能性低い」
多くの専門家は新型肺炎の患者がさらに増えて感染が広がったり、重症化する人が増えたりする可能性は低いとみる。新型コロナウイルスが継続的にヒトからヒトへ感染すると患者が爆発的に増える恐れがあるが、今のところそうした例は確認されていない。
新型コロナウイルスの感染の仕方はよくわかっていない。ただ、武漢市の海鮮市場の関係者から多くの患者が出たことから、市場で扱われていた動物から感染した可能性が指摘されている。東北大学の押谷仁教授は「同じくコロナウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)やSARSのようにコウモリが自然宿主でなんらかの動物を介してヒトに感染したと考えられる。ネコやネズミなどの可能性もある」と話す。
市場はすでに閉鎖されており、市場関係者からは3日以降、感染者は見つかっていない。だが、武漢市当局は14日、「ヒトからヒトへの感染の可能性を排除できない」との見解を示した。肺炎を発症した夫妻のうち、夫は海鮮市場で働いていたが、妻は市場への接触を否定しているからだ。