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「少年院」で数学を教えた先生が見た学校との違い
「背中を見せてはいけない」「ホチキス留めNG」…

授業を通じて知った、約束事
少年院での教科指導をお手伝いさせて頂き10年になりますが、その間、各施設の院長および現場の法務教官のご厚意で、授業以外でも院内の行事に出席する機会を得ることができました。

そこで、この10年間を通じて、授業に参加した経験から知った少年院での約束事、また、実際の我々の授業風景をお話ししてみたいと思います。さらに、印象的だった少年院での中学校卒業式、および施設での出院式の風景もお伝えできればと考えています。

10年前の景色ゆえ、今は分かりませんが、赤城での授業に参加し、いくつか不思議に思うことがありました。最初に「う〜ん……?」と思ったのが、教官が板書をするとき、常に身体を黒板に対し横向きに黒板をほぼ見ずに板書をし、顔は常に少年たちに向けているのです。見ていて書きにくいだろうなと。

授業後、教科指導の主任女性教官にこのことを話すと、少年院では、教官は絶対に少年たちに背中を見せてはいけないという規則があるのだそうです。言われてみればある意味、仕方ないことなんでしょう。ただ、教室には必ず後ろにも教官がひとりはいて、さらに廊下側の壁は大きな窓になっており、常に教官が廊下を往復し各教室を確認しています。それでも、ここまで厳格に決まりがあることに驚いたわけです。

また、14、15歳は多感な時期でもあり、授業中、私に怒鳴ってきた少年もいたので教官も神経を遣い大変です。少年が私に怒鳴ってきた状況ですが、教官が説明に悩んだ様子でしたので、後ろから私が助言をしたときのこと。

ひとりの少年が、「お前うるせぇ〜んだよ! それならてめーが教えてみろよ!」「ほらやれよ! 早くやれよ!」と、食ってかかってきたのです。少年の多くが大人、特に教師を嫌っているので仕方がないことなのですが。
ただ、このように授業中叫ぶ少年は珍しく、常に落ち着いた雰囲気で静かに授業は進んでいきます。それゆえ、あまりに少年たちが静かなので、村尾院長に「非行少年の授業とは思えない落ち着いた授業で驚きました」と話したのです。すると、村尾さんからは「このようにお客さん(外部の人間)が来たら、静かにすることを理解させることから始まるんです」との返答。矯正教育をまったく理解できていなかった私には、驚くことばかりでした。

また、通常の学校では普通の光景ですが、当時、少年院では少年に黒板で問題を解かせることを行っていませんでした。理由としては、少年たちの席からの移動を禁止していたからです。ただ、私たちが参加するようになり、瀬山先生が前で授業をするときは、教官がふたりで少年たちの様子を見ることができることもあり、そのときは、少年に前に出てもらい、黒板で問題を解かせることを認めてもらえるようになりました。

この少年を席から立たせ、黒板(ホワイトボード)で問題を解いてもらう件は、18、19歳を対象とした高認試験対策講座のときも、ひとりならよいが、ふたり以上の少年を前で解かせることには、最初、施設側が難色を示しました。が、最終的には許可が出て、3人まで一緒に解いてもらうことができるようになりました。

学校教育では見ることができない光景
このように、些細なことのようですが、常に緊張の中、少年院内では授業が行われています。さらに言えば、施設に関係なくどの少年院でも、少年たちが授業を受ける姿勢は、にぎりこぶしを膝に置き、椅子に直角に座り、背筋を伸ばし、いわゆる学校でクラスの全体写真を撮るときに前列で椅子に座っている姿勢を授業中、常に皆がしているのです。この風景を想像するだけでも、やはり通常の学校の授業とは違うことが分かって頂けるかと思います。

さらに、絶対に学校教育では見ることができない、衝撃的な光景も目にしました。

それは、中学生ではなく、18、19歳の少年を対象にした授業でのこと。授業終了後、部屋を出るとき、少年たちは教室の出口に一列に並び、ひとりずつボディーチェックと鞄の中の確認をされるのです。そして、廊下に二列縦隊に並び、点呼として「いち、に、さん、……」と番号を言わせ、人数確認が済むと、先頭の少年の号令のもと寮まで一糸乱れることなく行進して戻って行くのです。

なかなか少年院での様子を知ることはできないので、もう少しだけ、気づいたことをお話ししたいと思います。