東京・神保町に大清帝国第12代にして最後の皇帝(ラストエンペラー)、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)の子孫が経営する中華料理店「江南」がある。同店は、日本でもお馴染みの上海料理や四川料理の他、 愛新覚羅氏に伝わる「満漢全席(まんかんぜんせき)」料理を提供している。

 「満漢全席」とは、清朝の乾隆帝(1711~1799)の時代に生まれた宮廷料理で、満州族と漢族の料理から最高級の食材や珍味を選りすぐったもの。満漢全席の宴席メニューの数は、少なくても30品目以上、多ければ160品にも達する。清朝末期の権力者・西太后(1835~1908)が満州の奉天を訪問した際、列車には50のかまど、100人の料理人、100種類の正菜と100種類の軽食からなる満漢全席が用意されたという。

 そして「江南」が提供する満漢全席の中には、愛新覚羅一族に伝わる「不老長寿をもたらす」といわれる料理もあるという。筆者は「江南」オーナーにしてラストエンペラーの末裔である医学博士(小児科、総合内科)、青川昊太郎(愛新覚羅肇宇)氏に取材した。

――お店を起業された想いや、きっかけはございますでしょうか?

青川昊太郎氏(以下、青川)  私は医学博士でもありますが、愛新覚羅一族に伝承される健康的な料理とその文化を日本に伝えたかったからです。森羅万象の食材から栄養素を取り入れる、というのは和食の考え方とも共通点があり、日本人に受け入れやすいと思います。当店には「不老長寿をもたらす」料理もあります。

――「不老長寿をもたらす」のは、どのような料理ですか?

青川  フォーティヤオチァンという料理で、海鮮・豚の筋・朝鮮ニンジン・赤いナツメなど、漢方にも使われる高級食材をまるごと数日かけて蒸し煮にしたスープです。コラーゲンたっぷりで美容にも良いです。漢方には、「一物全体」という、1つの食材を種子・実・葉・根・皮などを含め丸ごと食べる、という考え方があります。生命は全体でバランスを保っているので、まるごと食べることで、食材が持つ本来の生命力をいただき不老長寿になれるのです。

――満漢全席にはどのような珍味が使われていますか?

青川  満漢全席には、楊貴妃が好んだといわれる象抜(ゾウの鼻)や、高級食材で有名な熊の手の他、コラーゲンたっぷりのラクダのコブ、猩唇(シフゾウの頬)、豹胎(ヒョウの胎盤)、犀尾(サイの陰茎)、鹿筋(シカのアキレス腱)、蛙の舌、鶴の首、冬虫夏草(地中の昆虫に寄生したキノコ)などの珍味が使われています。

 漢方には「同物同治」という考え方がありますが、これは体の中の不調を治すには、調子の悪い部位と同じものを食べると回復に役立つという考え方です。満漢全席料理は副生物の種類が豊富で、それぞれの部位から人間の身体に良い栄養素を取り入れることができます。精肉より副生物の方が高級食材とされています。

――愛新覚羅一族の健康法を教えてください。

青川  「医食同源」の考え方を大事にしています。 「病気の治療も日常の食事も、人間の生命を養い健康を保つためのもので、その源は同じ」という考え方に基づき、体によい食材を日常的に食べることですね。また 「身体(身)と環境(土)はバラバラではない」という「身土不二」という考え方もあります。身体は、さまざまなものを環境から取り入れるため、その土地柄、その季節に合った食べ物をとることが大切です。

――なるほど、たしかに和食の考え方と共通点が多いですね。

青川  料理や文化を通じて、もっと日本と中国が国民一人ひとりのレベルで仲良くできたらいいと思います。

 ちなみにフォーティヤオチァンは、高級食材が使われているにもかかわらず1皿3980円と意外にリーズナブル。だが、調理に数日かかるので事前の予約は必須だ。気になる読者は是非、「ラストエンペラー」の末裔が経営する料理店で“不老長寿の味”を体験してみてはいかがだろうか。

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