レバノンの国民議会選(定数128)の投票が15日、始まった。国内経済は2019年から悪化の一途をたどり激しいインフレに陥った上、20年にはベイルート港の大規模爆発の対応を巡って当時の内閣が総辞職するなど政治混乱も加わり、市民生活は現在も混迷を極めている。4年ぶりの選挙だが変革は困難との見方が強く、市民の関心は薄い。
 根強い政治不信などから低投票率が予想され、組織票を持つイスラム教シーア派政党ヒズボラ(現有13議席)の躍進が見込まれる。一方でスンニ派は今年1月、重鎮ハリリ前首相の政界引退表明で、同氏が率いるスンニ派政党「未来運動」(同20議席)は事実上瓦解。スンニ派は一枚岩になれず大幅に議席を減らすとみられる。
 18の宗教・宗派が混在するレバノンでは、一つの宗派が突出しないよう宗派ごとに議席数が割り当てられ、主要ポストは大統領がキリスト教マロン派、首相がスンニ派、国会議長がシーア派となっている。

 こうした「宗派主義」の割り当てが汚職や権力争いなどの政治腐敗を招いているとされる。弁護士アリ・アッバスさん(46)は制度を変えようと立候補。「議席を取れなくても、宗派主義に立ち向かう姿勢を見せたい」と改革を訴えているが、実現は困難との見方が根強い。

 市民の反応も多くが冷ややか。ベイルートの野菜卸売業ビラル・オマイラットさん(42)は電話取材に「選挙には何の期待もない。結局、誰も国民のことを考えていない」と話した。市内では電力不足が深刻で、1日2時間程度しか使用できない。さらに使う場合は、月200ドル(約2万5000円)を払って自家発電機を持つ個人から購入するしかないという。
 慈善団体の寄付に頼って暮らす人も増え、選挙戦では食料入りの袋を配って投票を呼びかける候補者もいる。

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