女性版『プロゴルファー猿』と侮ることなかれ! ゴルフアニメ『BIRDIE WING』がすごい

 『BIRDIE WING』は賭けゴルフで稼ぎながら生活するイヴと、大企業の令嬢である天鷲葵というふたりのゴルファーが互いに惹かれ、ぶつかり合っていくオリジナルの女子ゴルフアニメ。
公式サイトなどでは「世界初、女子ゴルフをテーマとしたオリジナルアニメシリーズ」という文言があるが、昨年末に女子ゴルフアニメ『空色ユーティリティ』が放送されたものの、そちらは1話15分のみだったため「世界初の(女子ゴルフ)アニメシリーズ」という看板に偽りはない。

 本作の魅力はいくつかあるが、まず挙げたいのは真っ当な熱血スポーツアニメであること。
本作のシリーズ構成を務めるのは『機動戦士ガンダム00』『僕のヒーローアカデミア』で知られる黒田洋介。
とは言え本作に関連して触れるなら“『スクライド』の黒田洋介”と記載したほうがいいかもしれない。
まだ物語は序盤ながら、イヴが「直撃のブルー・バレット」などと叫びながらさまざまな必殺技を駆使してホールを回り、その絶対的なライバルとして葵が君臨し続けるさまは、『スクライド』のカズマの熱さと劉鳳との関係性を彷彿とさせるレベル。
ふたりが運命の出会い、ライバル関係が始まったところで、現在動画配信サービスなどで再ブレイクしている、あの広瀬香美が歌う鮮烈なオープニングテーマ「Venus Line」が入ってくる第1話ラストの心地よさは春クールのハイライトのひとつと言っても過言ではないだろう。

 とはいえ、シリアス一辺倒ではなく抜けたところも多いのが本作の見やすさにつながっている。
バンダイナムコピクチャーズ作品らしく、ふいにガンプラやパックマンが登場するといった辺りは朝飯前。
ハーモニー処理や入射光が多い映像は『プロゴルファー猿』へのリスペクトを感じさせ、かと思えば『あした天気になあれ』内のショット時の掛け声「チャー・シュー・メン」をオマージュしてかちょい役のおじさんに「ホイ・コー・ロー」と言わせるなど過去のゴルフアニメへのアプローチも忘れない。

 そんな美味しい要素満載の本作を監督としてまとめるのは、絵コンテも全話手がける(※少なくとも5話時点までは)稲垣隆行。
10年ほど前の『ジュエルペット サンシャイン』でギャグアニメの名手であることが世に知られ、その後も『俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している』や『聖剣使いの禁呪詠唱』『空戦魔導士候補生の教官』などでおかしみを滲ませて熱狂的なファンを生み出している鬼才の手腕は本作でも健在。
大仰な仕掛けで変形するゴルフコースや、ゴルフアニメに似つかわしくないロケットランチャーの登場などツッコミどころは盛りだくさん。
ライバル関係となった主人公ふたりの切ないドラマと、トンデモゴルフ要素が結びついた第4話のクライマックスは、泣けばいいのか笑えばいいのか……戸惑いながら震える人も多くいそうな名シーンだ。

 もちろん真っ当に力が入っていることを伺わせる部分も多く、ゴルフ監修には世界ジュニアゴルフ選手権日本監督代表のプロコーチが起用され、キャストはイヴ役の鬼頭明里と葵役の瀬戸麻沙美という旬の声優の脇を実力派や中堅が固める。
ただし後者については古谷徹&池田秀一という“お約束”コンビや、主人公の身体を狙う“死神”ヴィペールという噛ませ犬的なアンダーグラウンド・ゴルファーに名塚佳織を配役するなど独特の味わいがあるのが本作らしい。

 最後に『BIRDIE WING』を観ていて気付いた点をひとつ。実はゴルフは比較的アニメ化しやすい題材なのではないだろうか。
野球と同じくしばしばプレーが止まるため会話などを挟むのが容易であり(「動き続けるサッカーをアニメ化するのは大変」といった話の逆)、多くのシーンの背景となるコースは用意すべき素材が少なそうでCGによる制作のハードルは思ったより高くないかもしれない。
また冒頭で述べたように日本ではゴルフがメジャースポーツのため潜在的な需要もあるだろう。
世間的なゴルフ人気の高まりをもあり、そろそろゴルフアニメが増えていくのでは……そんなことを考えながら、『BIRDIE WING』という強烈なストレートボールの行方を見守りたい。

https://news.yahoo.co.jp/articles/29a3b4086989168165dec85d6e1a67ea36dd61fb