熊本県内を走行中の九州新幹線に火を付けたとして、威力業務妨害と器物損壊の罪に問われた住所不定、無職三宅潔被告(69)の判決公判が24日、熊本地裁である。他者とのつながりが乏しく、孤立を深め自殺願望を募らせた被告。それでも今は「死にたいとは思わない」と言う。大きな心境の変化には、犯行直後に投げかけられた乗客の言葉があった。 (松本紗菜子)

 検察側の冒頭陳述や被告人質問によると、大阪府出身の被告は中学卒業後、工場で働き始めた。ただ、人間関係がうまくいかず職を転々とする。給料は食事と酒とたばこに消え、自宅で1人酒をあおった。「本音を話せる人はいなかった」

 「自殺」の二文字がちらつき始めたのは事件の約1年ほど前。高齢者の孤独死のニュースを見るたび、わずかな年金と生活保護で暮らす自身の境遇を重ねた。「死にたいけど死にきれない、家を出ます」。昨年11月、同じマンションに住む知人宅の郵便受けに手紙を入れ、自宅を離れた。

 同10月、東京都内を走行中の京王線電車内で起きた乗客刺傷事件が頭にあった。焼身自殺を考え、ライターオイルをペットボトルに移した。理由もないまま、JR熊本駅から鹿児島行きの新幹線に乗車した。

 熊本駅から新八代駅に向かう新幹線内。「もうここで死のうか」。オイルを入れたペットボトルを車内の床にまき、火をつけたレシートを落とした。命を絶つことだけを考えていた。

 「あんたがしたつや」。パニックになる乗客の横で立ち尽くしていると、男性に声をかけられた。この男性は熊本県内の医師で、火を踏みつけて消火。停車まで被告に声をかけ続けた。「何があったのか知らないけれど、お迎え(死)が来たら拒めない。それまで笑って生きたらどうか」

 見ず知らずの男性の言葉は、すさんだ心に重く響いた。公判で弁護人に現在の自殺願望を問われた被告はこう言った。「今は死にたいとは思わない」

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