熊本県内有数の進学校、県立済々黌高の元生徒(20)が、入学直後の校歌指導や部活動での強制的な丸刈りなど、同校で長く続く「シメ」行為によって精神的苦痛を受けたとして、県に1円の損害賠償を求め、熊本地裁で争っている。学校側は「そんな言葉は聞いたことがない」と反論を続ける。判決は30日言い渡される。 (綾部庸介)

 元生徒側が主張する「シメ」は、入学直後に応援団が新入生に行う校歌指導などを指す。元生徒によると、入学式翌日に突如、上級生に取り囲まれ「なぜ校歌を覚えていないのか。ぼーっとするな」などと詰め寄られたという。指導では応援団が同級生をにらみつけ「声が小さい」と怒鳴る様子を目撃した。

 「シメ」の一環として、所属していたソフトテニス部の上級生から丸刈りを強要されたショックもあり、元生徒は不登校になり、翌年に退学。裁判では学校側が「シメ」行為を黙認したとして安全配慮義務を怠ったと主張している。

 一方、学校側は校歌指導は長年続けてきた同校の伝統だと説明。「学校の一員になれたという実感を得るために重要。批判される要素はない」と言い切る。「シメ」行為は存在しないと反論し、証人として法廷に立った当時の教員は「聞いたことがない」と口をそろえる。

 「本当にそう言ってるんですか」。6年前に同校を卒業した県内の20代男性は学校側の主張に首をかしげる。入学直後、知り合いの上級生に「茶番みたいな脅しがある」と聞いていた。ある日、応援団を含む上級生が急に教室にやって来て、机をたたいて怒鳴る。「だらだらするな!」。事前に聞いていたため、驚かなかったが「ストレスを感じた人もいたはず」と振り返る。

 「いつか問題になると思っていた」と話すのは別の20代卒業生。「校歌指導では上級生がシメと称して新入生を脅し、楽しんでいたように思う。教員は見て見ぬふりだった」と振り返る。

 1882年創立の同校はバンカラな校風で知られる。裁判を機に、指導が原因で数年前に不登校になったと打ち明けた女性は、校歌指導を疑問視する雰囲気は校内になく、周囲に相談もできなかったという。「自分が駄目な人間だと思い込んでしまった」と言い、翌年学校を去った。

 女性は今年1月の口頭弁論を傍聴した。法廷では、学校側証人の元応援団長の男性が「(シメという言葉は)鍋の終わりに使う程度」と答え、学校関係者はくすっと笑った。女性はなかったことにしていると感じた。「威圧的なシメがあり、傷ついた生徒がいたことは事実です」と話した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bda7ba312298492afc1860607bcb01ee32162ef2